巨大地震が突きつけた「想定外」への備え：業界全体で挑むべき課題
先月発生したカムチャツカ半島沖地震とそれに伴う津波被害は、我々建設業界に改めて「想定外」への備えの重要性を突きつけている。甚大な被害をもたらしたこの未曽有の災害は、過去の経験やデータに基づいた計画がいかに脆いものであるかを浮き彫りにした。
もちろん、日頃からの防災・減災への取り組みは、我々の責務として当然のことである。しかし、今回の事例は、我々がこれまで「想定内」としてきた範囲を遥かに超える事態が発生しうるという事実を、冷徹に突きつけた。特に、我々が長年培ってきた技術や知識をもってしても、自然の猛威の前には限界があることを痛感させられる。
では、この「想定外」にどう向き合っていくべきか。それは、単に個々の企業が対策を強化するだけでなく、業界全体として、そして社会全体で新たな次元の議論を始めるべき時が来ているということだろう。
まず、最新の科学技術を積極的に取り入れ、地震や津波の予測精度向上、被害想定の精緻化に貢献していく必要がある。AIやビッグデータ解析といった最先端技術は、これまで見過ごされてきた因果関係やパターンを明らかにし、より的確なリスク評価を可能にするはずだ。また、それらの情報に基づいた、より柔軟で機動的な避難計画やインフラ復旧計画の立案が求められる。
次に、構造物の設計思想そのものにも、さらなる見直しが不可欠だ。単に「壊れない」ことを目指すだけでなく、「被害を最小限に抑える」「早期復旧を可能にする」といった、より多角的な視点からのアプローチが求められる。例えば、免震・制震技術のさらなる進化はもちろんのこと、災害発生時にも機能し続けるライフラインの確保、あるいは迅速な復旧を前提とした材料や工法の開発など、検討すべき課題は山積している。
そして、最も重要なのは、この経験を風化させないことだ。今回の災害で得られた教訓を、今後のあらゆるプロジェクトに生かすための仕組みづくりが急務である。設計段階でのシミュレーション、施工時の品質管理、さらには運用・保守に至るまで、その全てのプロセスにおいて、今回の経験を羅針盤として進んでいく必要がある。
もちろん、これらの課題への取り組みは、容易なものではない。多大なコストと時間を要し、新たな技術開発には多くのリスクが伴うだろう。しかし、我々建設業界が担うべき使命は、人々の安全と安心な暮らしを守ることにある。その使命を果たすためには、今こそ、業界全体で知恵を出し合い、英知を結集し、この「想定外」への挑戦に立ち向かう時である。
我々はこの痛みを乗り越え、より強靭な社会基盤の構築という、新たな歴史を刻む覚悟を持たねばならない。
カムチャツカ半島沖地震による津波被害と消防の対応状況について（第7報）,消防庁
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