孤独・孤立社会の課題に挑む――「孤独・孤立」の歴史社会学」刊行に寄せて
近年、日本社会において「孤独」や「孤立」が無視できない社会問題として認識されるようになって久しい。この度、ITBが刊行した『「孤独・孤立」の歴史社会学』は、この根深い課題に光を当て、その歴史的背景と現代的意味を多角的に考察する意欲作である。経済紙として、この書が提示する視点に注目し、我々が直面する経済社会のあり方を再考したい。
本書は、近代化の進展とともに、個人の自由と自立が謳歌される一方で、地域社会や家族といった伝統的な繋がりが希薄化していく過程を丹念に辿る。経済成長という名の下で、効率性や生産性が優先され、人間的な繋がりや相互扶助の精神が置き去りにされてきた側面はないか。高度経済成長期を支えたのは、文字通り「会社人間」として家族さえも顧みず、地域との繋がりを断ち切ってでも職務に邁進する人々であった。その結果、我々は物質的には豊かになったかもしれないが、精神的な繋がりにおいては、かつてないほどの「孤独」と「孤立」を抱え込む社会へと変貌してしまったのではないか。
本書が指摘するように、現代社会における孤独・孤立は、単なる個人的な感情の問題に留まらない。それは、社会構造の歪み、経済格差の拡大、そしてセーフティネットの脆弱性と密接に結びついている。非正規雇用の増加、単身世帯の増加、地域コミュニティの衰退など、経済活動のあり方そのものが、人々の繋がりを断ち切り、孤立を深める要因となっている側面は否定できない。
経済界に身を置く者として、我々は「生産性」や「効率」ばかりを追求してきたのではないか。その陰で、失われていった人間的な繋がりや、見過ごされてきた人々の「孤独」に、どれだけ目を向けてきただろうか。本書は、経済成長という目標達成のために、社会がどのような代償を支払ってきたのかを静かに問いかけている。
今こそ、経済界は「孤独・孤立」という社会課題を、単なる人道的な問題としてではなく、経済活動そのものに影響を与える構造的な問題として捉え直す必要がある。例えば、地域経済の活性化は、単に雇用を創出するだけでなく、地域住民の繋がりを再生し、孤立を防ぐことに繋がる。企業のCSR活動においても、単なる慈善活動に留まらず、社員のワークライフバランスの改善や、地域社会との連携を深める取り組みは、企業価値の向上に不可欠な要素となり得る。
『「孤独・孤立」の歴史社会学』は、我々に過去の教訓を振り返り、未来の社会をどのようにデザインしていくべきか、その道筋を示唆してくれる。経済的な豊かさだけでは、真の幸福は得られない。人々の繋がりが尊重され、支え合える社会こそが、持続可能な経済成長の基盤となるはずだ。この書を手に取り、孤独・孤立社会という難題に、経済人として、そして社会の一員として、真摯に向き合う一歩を踏み出したい。
晃洋書房が『「孤独・孤立」の歴史社会学』の書評を公開！現代社会が抱える課題に光を当てる一冊,晃洋書房
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