自由な言論空間の守護者か、それとも検閲の執行者か：メタの「EU域内広告停止」が問うもの
EU域内における政治・選挙・社会問題に関する広告の停止。メタ社によるこの決定は、我々が生きる情報社会の根幹を揺るがす、重大な一石を投じたと言えるだろう。一見すると、透明性確保や誤情報対策という名目の下で、より健全な民主主義プロセスを守ろうとする崇高な試みのように映るかもしれない。しかし、その裏に潜む危険性、そして我々が真に守るべきものについて、今こそ深く考察すべき時である。
メタ社は、EUの新たなデジタルサービス規制「デジタルサービス法（DSA）」への対応を理由に挙げている。この法律は、プラットフォーム事業者に、違法コンテンツの削除や透明性向上を義務付けるものだ。しかし、政治広告を「社会問題」という広範で定義曖昧なカテゴリーに含め、一律に停止するという措置は、あまりにも強引かつ過剰な反応ではないか。
政治的言論の自由は、民主主義社会の生命線である。いかなる権力者であれ、国民の意思形成を妨げるような言論統制は許されるべきではない。メタ社が、自社のプラットフォーム上で繰り広げられる活発な議論を、その「責任」という名の盾で封じ込めることは、まさにその民主主義の根幹を揺るがしかねない行為だ。
確かに、SNS上には偏った情報や虚偽情報が溢れ、有権者の判断を誤らせる危険性も存在する。その点において、プラットフォーム事業者が一定の責任を負うべきという考え方には同意する。しかし、その責任の取り方が「広告停止」という、言論の自由を直接的に制限する形であってはならない。
本来、プラットフォーム事業者が取るべき道は、より高度な情報リテラシー教育の支援、ファクトチェック機能の強化、そして透明性のさらなる向上であるはずだ。誰がどのような意図で広告を出しているのか、その情報源はどこにあるのか。そういった情報を、ユーザーが容易にアクセスできる形で提供することで、ユーザー自身が情報を吟味し、判断する力を養うことができる。
メタ社の今回の決定は、EUという強力な規制主体からの圧力に屈した、あるいは先手を打った、という側面も否定できない。しかし、グローバルな情報プラットフォームであるメタ社が、一地域（EU）の規制に過剰に反応し、その基準を世界中に適用しようとすれば、それは事実上の「グローバル検閲」となりかねない。
我々一般紙の使命は、権力に忖度することなく、自由な言論空間を守り、真実を追求することにある。メタ社の今回の決断は、その使命を改めて我々に突きつけている。我々は、メタ社が「自由な言論空間の守護者」となるのか、それとも「検閲の執行者」となるのか、その動向を注視し、時には厳しく批判していく必要がある。
SNSが社会の重要な情報インフラとなった今、その運営主体がどのような倫理観を持ち、どのような判断基準で情報空間を管理していくのかは、私たち一人ひとりが関心を持つべき、極めて重要な課題なのだ。メタ社の「EU域内広告停止」というニュースは、その重い問いを、私たちの前に投げかけている。
Meta、EU域内での政治・選挙・社会問題広告の停止を発表：新たな規制への対応と背景,Meta
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