巨大メディアの「囲い込み」に潜む、放送業界の静かなる危機
フランスのメディア大手TF1が、競合であるCanal+に対して6500万ユーロという巨額の放送権料を要求したというニュースは、一見すると単なるビジネス上の駆け引きに過ぎないように映るかもしれない。しかし、その背後には、放送業界全体、いや、我々が慣れ親しんできた「情報」というもののあり方そのものが揺るがしかねない、静かなる危機が潜んでいると、この紙は警鐘を鳴らしたい。
今回の件は、衛星放送事業への参入を試みるTF1が、そのコンテンツの魅力を高めるために、Canal+が独占的に保持していたUEFAチャンピオンズリーグなどの主要なスポーツイベントの放送権を、一部でも良いから獲得しようとしている、という文脈で語られている。ここには、巨大メディアが「自社のプラットフォームでしか見られない」という状況を、さらに強固にしようとする意図が透けて見える。
かつて、テレビ放送は「公共の電波」を利用し、国民全体に広く情報を届けるという側面を持っていた。もちろん、営利企業としての側面も当然あったわけだが、それでも一定の社会的責任が問われる余地はあった。しかし、現代のメディア環境は、インターネットの普及とともに、ますます細分化され、有料化が進んでいる。そして、今回のような「囲い込み」は、その流れをさらに加速させるものだ。
考えてみてほしい。もし、TF1が要求を通り、Canal+がそれに屈したとすれば、これまで多くの人々が比較的容易にアクセスできたであろうスポーツイベントが、さらに限られた層、あるいは特定の契約者のみにしか提供されなくなる可能性が高い。これは、単に視聴料が高くなるという金銭的な問題にとどまらない。それは、共通の話題や感動を分かち合う機会が失われることを意味する。サッカーファンの間での会話、家族で集まって試合を観戦する楽しみ、そういった日常的な文化体験までもが、経済的な垣根によって隔てられてしまうのだ。
さらに憂慮すべきは、このような「囲い込み」が、放送業界全体のコンテンツ創造のあり方にも影響を与えかねない点だ。競争原理が働くべき分野で、一部の巨大メディアが富を集中させ、独占的な権利をさらに強固にすることは、新たな才能の発掘や、多様な視点からのコンテンツ制作の機会を奪うことにも繋がりかねない。結果として、視聴者が享受できる情報は画一化され、創造性は失われてしまうのではないか。
我々一般紙の使命は、単に事実を報道することだけではない。その事実が社会にどのような影響を与えるのか、そして、それが我々の「知る権利」や「文化的な営み」にどのような変質を迫るのかを、深く掘り下げ、問い直すことにある。今回のTF1とCanal+の攻防は、単なるビジネスニュースではなく、放送業界、ひいては我々自身の情報との関わり方、そして社会全体のあり方について、真剣に考えるべき契機を与えている。
巨大メディアの「囲い込み」という名の牙城は、どこまで高くなるのだろうか。そして、その城壁の向こう側で、我々が失うものは何なのか。この問いに対して、我々は決して沈黙してはならない。
TF1、Canal+に6500万ユーロを請求？一体何が？〜放送業界の舞台裏を覗いてみよう〜,Journal du Geek
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