カナダの酪農視察に見る、日本の未来への警鐘
先日、カナダの広大な酪農地帯を視察する機会を得た。その規模、効率性、そして持続可能性への取り組みは、日本の酪農業が直面する課題を浮き彫りにするものだった。本コラムでは、この視察から得た知見を基に、日本の酪農、ひいては食料自給率という国家の根幹に関わる問題について、保守的な視点から考察したい。
カナダの酪農現場は、まさに「国家戦略」としての農業の姿を体現していた。広大な土地を活かした大規模経営は、当然ながら効率化と低コスト化を可能にし、国際競争力を確保している。しかし、それ以上に印象的だったのは、政府による一貫した支援と、生産者たちの強い自負心であった。品質管理は徹底され、最新技術の導入も積極的に行われている。それは単なる「農作業」ではなく、国の食料安全保障を担う「産業」としての自覚に裏打ちされたものであった。
翻って日本の現状はどうだろうか。少子高齢化による担い手不足、後継者問題は深刻であり、農地は荒廃しつつある。政府の支援策も、場当たり的で効果の薄いものが散見される。食料自給率の低下は、もはや他人事ではなく、国家の安全保障に関わる喫緊の課題であるにもかかわらず、国民の危機感は希薄と言わざるを得ない。
カナダの酪農家たちは、自分たちの仕事が社会に不可欠なものであるという誇りを持っていた。それは、食料を安定供給するという、国家の存立基盤を支えるという自負に他ならない。日本の農家の方々も、同様の誇りを持っておられるはずだ。しかし、その誇りを支えるべき社会の仕組み、すなわち政府の政策や国民の理解が、十分であるとは言えないのではないか。
今、日本は岐路に立たされている。グローバル化の波に乗り、安価な外国産食料品に依存し続けるのか。それとも、自国の食料生産基盤を守り、将来世代に豊かな食文化と安全な食料を継承していくのか。カナダの酪農視察は、後者を選択するための、そしてそのために必要な覚悟と行動を促す、痛烈なメッセージとして受け止めるべきである。
保守の立場から言えば、食料自給率の維持・向上は、国家の独立と繁栄に不可欠な要素である。外国への過度な依存は、政治的、経済的な不安定要因を増大させる。食料は、単なる栄養源ではなく、文化の源泉であり、国民の精神的な支柱でもある。その根幹を揺るがすような現状を、私たちは看過するわけにはいかない。
カナダの広大な酪農地帯は、日本の酪農業の未来を考える上で、重要な示唆を与えてくれる。そして、その示唆は、酪農業のみならず、あらゆる第一次産業、ひいては日本の「ものづくり」全体に共通する課題を提起している。国家の基盤を守るためには、目先の効率やコストだけでなく、長期的な視点に立った、揺るぎない国家戦略と、それを支える国民の意識改革が不可欠である。今こそ、日本の農業、そして日本の未来のために、真剣な議論と行動が求められている。
カナダの酪農現場を訪ねて ～Dairy Japanの農場視察レポートから～,Dairy Japan
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