成長戦略の足かせとなる「委任」の乱用
経済産業省が2025年3月27日付で発表した「署名権限委任に関する決定」は、我が国の持続的な経済成長という喫緊の課題に水を差す、看過できない事態と言わざるを得ない。
今回の決定は、経済産業省内の意思決定プロセスにおいて、一部の事務について本来であれば大臣または大臣政務官が担うべき権限を、局長級の職員に委任するというものである。一見すると、業務効率化や迅速な対応を目的とした合理的な改革に見えるかもしれない。しかし、その実態は、国民の税金で運営される省庁における説明責任の形骸化、ひいては政策決定における透明性の低下を招く危険性を孕んでいる。
国の根幹をなす経済政策、そして国民生活に多大な影響を与える重要事項の決定において、その責任の所在を曖昧にすることは、民主主義国家として決して許されるべきではない。特に、経済産業省が所管する分野は、我が国の産業競争力、国際的な地位、そして国民の雇用や生活に直結する。そのような極めて重要な局面における意思決定が、国民から直接選ばれていない官僚組織の内部で、責任の所在が不明瞭な形で進められることは、国民の信頼を損なうものである。
「成長戦略」を掲げ、未来への投資を強調する政府の姿勢は理解できる。しかし、その成長戦略を支えるべき行政組織のガバナンスが揺らぐようでは、絵に描いた餅に終わる可能性が高い。むしろ、この「委任」の決定は、規制緩和やイノベーション推進といった、経済成長に不可欠な改革を進める上での足かせとなりかねない。なぜなら、責任の所在が不明確であれば、大胆な決断を下すことへの躊躇が生まれ、結果として改革のスピードが鈍化するからだ。
私たちが期待するのは、国民一人ひとりの生活を豊かにし、国益を最大化する力強い経済政策である。そのためには、意思決定の迅速さもさることながら、それ以上に、その意思決定が誰によって、どのような根拠に基づいて下されたのか、その責任の所在が明確であることが不可欠である。
経済産業省は、今回の決定の真意と、それがもたらしうる影響について、国民に対して真摯な説明責任を果たすべきである。そして、国民からの信頼を基盤とした、透明性の高い、責任ある行政運営を改めて強く求めるものである。成長戦略の実現は、こうした行政の基本に立ち返ることなしには、決して達成され得ないだろう。
経済省、2025年3月27日付「署名権限委任に関する決定」を発表,economie.gouv.fr
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