岐路に立つ日本経済：デジタル化推進の先に見据えるべきもの
政府が来年（2025年）を「デジタル社会推進財源」と位置づけ、経済財政、産業、デジタル分野を横断する方針を打ち出した。これは、AIやIoTといった先端技術の活用による生産性向上や新たな産業創出を目指す、まさに現代社会における喫緊の課題への取り組みと言えるだろう。しかし、その壮大なビジョンが、果たしてこの国の根幹を揺るがすような変化を、国民一人ひとりの生活を豊かにする形で実現できるのか。保守的な立場から、私たちは冷静に、そして慎重にこの流れを見つめ直す必要がある。
デジタル化の推進は、確かに経済成長の起爆剤となりうる。しかし、その過程で何が失われ、何が残されるのか。伝統的な産業、長年培われてきた技術、そして地域社会に根差した人間関係。これらがデジタル化の波に呑み込まれ、跡形もなく消え去ってしまうような未来は、果たして望ましいものなのだろうか。技術革新は、あくまでも「手段」であって「目的」ではないはずだ。その恩恵が、一部の先進企業や都市部に集中し、地方や中小企業、そして高齢者など、デジタル化から取り残されがちな層との格差をさらに拡大させるようでは、社会の安定は望めない。
また、経済財政、産業、デジタルという三つの柱を統合するというのは、聞こえは良いが、その実、各分野の専門性や特性を無視した「混ぜご飯」に終わる危険性も孕んでいる。それぞれの分野が持つ固有の課題や、長年にわたる経験から得られた知見を、拙速な統合によって失うことはないか。むしろ、それぞれの分野が持つ強みを活かしつつ、互いに補完し合うような、よりきめ細やかな連携こそが、真の持続可能な発展に繋がるのではないだろうか。
さらに、デジタル化が進むにつれて、情報セキュリティやプライバシーの問題、さらにはAIによる倫理的な課題など、新たなリスクも増大する。これらに対する十分な備えはできているのだろうか。国民の信頼を得るためには、技術の進歩を追いかけるだけでなく、それに伴うリスクを未然に防ぎ、万が一の事態にも迅速かつ適切に対応できるような、強固なセーフティネットの構築が不可欠である。
来年を「デジタル社会推進財源」とするならば、その先にあるべきは、単なる経済成長や技術革新の推進にとどまらない、より豊かで、より安心できる、そして何よりも「人間らしい」社会であるべきだ。私たちは、この国の未来を、刹那的な流行や一過性のブームに流されることなく、確かな歩みで築き上げていかねばならない。デジタル化の光の先に、見失ってはいけない大切なものがあることを、改めて心に刻むべき時である。
フランス経済・財務・工業・デジタル主権省、2025年3月27日付、署名委任に関する決定（No. 2025-25）を発表,economie.gouv.fr
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