コラム：コメ処方箋、食卓への恩恵か ― 「国民皆食」の未来図に潜む危うさ
日本人の食卓に欠かせない米。その米を「処方箋」として活用しようという試みが、一部で進んでいるという。健康増進や疾病予防を目的とした「機能性表示食品」としての米への期待は、食の安全・安心を求める国民にとって、一見、歓迎すべき動きに映るかもしれない。しかし、その裏に潜む、伝統的な食文化への安易な介入と、過度な「健康至上主義」の危うさについて、我々は冷静に、そして批判的な視点で見つめ直す必要がある。
「国民皆食」という言葉は、聞こえは良い。すべての人々が健康で豊かな食生活を送れるように、という理想は共有されるべきだろう。しかし、その理想を、特定の農産物、特に「米」という、古来より日本人と深く結びついてきた食の根幹を「処方箋」という新たな枠組みで捉え直すことには、違和感を禁じ得ない。米は、単なる栄養源ではない。それは、我々の先祖から受け継いできた歴史、文化、そして共同体の絆そのものであった。それを「機能」という切り口で分断し、細分化していくことは、食の持つ本来の豊かさを、何よりも大切な「共食」の精神を、歪めてしまうのではないか。
近年、「健康」への関心は高まる一方だ。それは結構なことだが、同時に、食を過度に「健康」という単一の価値観で縛り付ける傾向も強まっているように思える。栄養バランス、カロリー計算、そして今度は「機能性」まで。食卓は、もはや家族団らんの場というより、個々人の健康管理のための実験室と化しているかのようだ。米を「処方箋」として摂取することが、本当に我々の食生活を豊かにするのだろうか。むしろ、食への義務感や強迫観念を植え付け、食の本来の喜び、すなわち「美味しい」と感じる純粋な感動を奪ってしまうのではないか。
もちろん、科学技術の進歩は、農業や食料生産に新たな可能性をもたらす。しかし、それを導入する際には、その技術がもたらす短期的な効果だけでなく、長期的な視点、そして何よりも、我々の社会や文化にどのような影響を与えるのかを、慎重に、そして国民全体で議論する必要がある。特に、米という、日本人のアイデンティティと深く結びついた食のあり方を変えようとする試みには、より一層の慎重さが求められる。
古来より、日本人は米を「神饌」として神に捧げ、共に食することで、人々の絆を深めてきた。その「米」が、単なる「機能性食品」の素材として扱われる未来は、果たして我々が望むものであろうか。食卓に「処方箋」が並び、米が「薬」として扱われる時代が来るとすれば、それは、我々が失うものがあまりにも大きい、危うい一歩と言わざるを得ない。伝統を重んじ、食の根源を見失わないこと。それが、保守的な一般紙として、今回提起された「米の処方箋」という話題に対して、私たちが抱く、切実な懸念である。
読者の皆様へ、コクシジウムの神秘に迫る！〜その生命のサイクルを優しく解説〜,Dairy Japan
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