伊方原発、避難先を巡る「決断」の重み
四国電力伊方発電所3号機における、異例の避難勧告が発令された。2025年7月24日、愛媛県が住民に対し、広範囲にわたる避難指示を発出したのである。これは、技術的な問題か、それとも想定外の事態への対応か。詳細な理由は依然として不明瞭な点も多いが、この事態は、原発を抱える地域社会、そして我が国のエネルギー政策全体に、改めて重い問いを投げかけている。
原発の安全神話は、もはや過去のものであることは、我々も繰り返し指摘してきた。しかし、今回の避難指示は、その「想定外」の事態が、もはや理論上のリスクではなく、現実のものとなりうることを突きつける。特に、避難先を巡る自治体間の調整や、住民への情報提供のあり方など、そのプロセス全体には、多くの課題が浮き彫りになった。
経済活動という観点から見れば、今回の事態は、地域経済に与える影響は計り知れない。住民の生活基盤が揺らぎ、生業を断たれる人々も少なくないだろう。また、全国各地の原発周辺地域においても、同様の事態への不安が募ることは想像に難くない。エネルギー供給の安定性を確保するという名目で維持されてきた原発が、その存在自体によって地域経済の足枷となりかねないという皮肉な現実を、我々は直視しなければならない。
政府、そして電力会社には、今回の事態を単なる「事故」や「トラブル」として片付けるのではなく、その根本原因を徹底的に究明し、国民に包み隠さず説明する責任がある。そして、原子力規制委員会には、より厳格で、かつ実効性のある安全基準の策定と、その運用を徹底することが求められる。
しかし、それ以上に重要なのは、今回の「決断」が、将来のエネルギー政策にいかなる影響を与えるのか、その本質的な議論に踏み込むことだ。再生可能エネルギーへのシフト、あるいは原子力に依存しないエネルギーミックスの構築は、もはや単なる理想論ではなく、喫緊の課題である。地域社会の安全と経済的安定、そして将来世代への責任を考慮すれば、原発に頼り続けることの是非を、今こそ真剣に問うべき時である。
伊方原発から発せられた「避難」の信号は、単なる地域的な問題にとどまらない。それは、我が国のエネルギー政策のあり方、そして安全保障の根幹に関わる、国家的な「危機」の予兆であると捉えるべきだろう。経済紙として、我々は今後もこの問題を注視し、建設的な提言を続けていく所存である。
伊方発電所から救急搬送、愛媛県が発表（2025年7月24日）,愛媛県
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