金融庁の「経済価値ベース」規制導入、安定志向の保険業界に静かな波紋
金融庁が保険会社の監督指針に「経済価値ベース」の考え方を導入する方針であることが明らかになった。これまでも solvencyⅡ のような国際的な規制はあったものの、今回の動きは、より実質的な企業の価値、すなわち「経済価値」を重視し、それを基にした監督を強化するというものだ。保険業界は、その本質からして将来のリスクに備え、長期的な安定を最重要視する産業である。今回の規制強化は、その安定性をさらに磐石なものにするという建前ではあるが、保守的な視点から見れば、杞憂も少なからず存在する。
まず、この「経済価値」という言葉自体に、どこか実態から乖離した、あるいは将来の不確実性を過度に重視する響きがある。保険業とは、まさに不確実な未来を、現在の人々の支え合いによって乗り越えようとする営みである。それを、現在の経済的価値という静的な指標で縛りつけようとするのは、保険本来の精神に反するのではないか。もちろん、財務の健全性は論を俟たない。しかし、あまりにも細かく、あまりにも厳格に「経済価値」を追求するあまり、保険会社が本来果たすべき、社会保障としての役割や、人々の生活設計を支えるという使命感が希薄になってしまうことを危惧する。
また、この「経済価値ベース」の導入が、保険商品にどのような影響を与えるのか、その点も慎重な検討が必要だ。もし、この新しい規制が、保険会社の収益性を圧迫し、結果として保険料の値上げや、保障内容の縮小に繋がるのであれば、それは国民生活に直接的な打撃となる。特に、将来への備えとして保険に加入している多くの人々にとって、予期せぬ負担増は大きな不安材料となるだろう。政府が国民生活の安定を掲げるのであれば、こうした影響を最小限に抑えるための十分な配慮が求められる。
さらに、金融庁の意図するところが、真に保険業界の健全な発展を促すものであるならば、その導入プロセスにおいても、業界との丁寧な対話と、国民への明確な説明が不可欠である。専門用語が飛び交う中で、その真意が国民に理解されず、ただ漠然とした不安だけが広がるような事態は避けなければならない。
保険業は、社会の安定を支える基幹産業である。その根幹を揺るがしかねない規制の変更には、国民一人ひとりが、その影響を理解し、国が責任ある姿勢で臨むことを期待したい。目先の「経済価値」に囚われるあまり、長期的な視点、そして何よりも「人々を守る」という保険の本質を見失ってはならない。
金融庁、保険会社の「経済価値ベース」規制導入へ！私たちの保険はどう変わる？（2025年7月23日発表）,金融庁
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