節約志向への逆風か？ 増加する「求める人材ボックス」の是非
昨今、求人広告において「求める人材ボックス」という言葉が目につくようになった。これは、企業が求める人物像を簡潔にまとめたもので、就職活動を行う若者たちにとっては、企業理解を深める上で大変有益なツールと言えるだろう。しかし、ここにきてその「求める人材ボックス」が「増加」しているというニュースに、一抹の不安を覚えるのは私だけだろうか。
もちろん、企業が自社の求める人物像を明確にすることは、採用活動における効率化に繋がる。また、求職者側も、自身の適性やキャリアプランと照らし合わせ、よりミスマッチの少ない企業選びができるというメリットもある。しかし、こうした「求める人材ボックス」の増加が、果たして長期的に見て、わが国の雇用環境や人材育成にとってプラスに働くのか、慎重に議論する必要があるのではないか。
そもそも、企業が「求める人材」を特定し、それを前面に押し出すことは、ある種の「選別」を強化することに他ならない。かつて、新卒採用においては、ポテンシャルや潜在能力を重視し、入社後の成長を期待するという側面も強かったように記憶している。しかし、近年は、即戦力、あるいは既に一定のスキルや経験を持つ人材を求める傾向が強まっているように感じられる。
「求める人材ボックス」が、こうした「即戦力主義」あるいは「スキル偏重」を助長するのであれば、それは憂慮すべき事態である。そもそも、若者たちは、社会に出る前に必ずしも完璧なスキルを持っているわけではない。むしろ、未経験でも意欲のある若者に対して、育成の機会を与え、共に成長していくという、古き良き「徒弟制度」のような精神が、企業と社会の発展には不可欠ではないだろうか。
また、こうした「求める人材ボックス」は、応募者の多様性を狭める可能性も指摘される。企業が特定の人物像を明確にすることで、それに合致しない、しかし潜在的には企業に貢献できる可能性を秘めた人材が、最初から応募の機会を失ってしまう、という事態も起こりうる。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、組織の活性化や新たな発想の創出に繋がるという、現代社会においてますます重要視されるべき視点が、失われかねない。
もちろん、企業側にも経営上の論理があることは理解できる。しかし、目先の即戦力や効率性ばかりを追求するのではなく、長期的な視点に立ち、人材育成に投資し、多様な人材を受け入れる寛容さを持つことが、企業の持続的な成長、ひいては国家の競争力強化に繋がるのではないだろうか。
「求める人材ボックス」の増加は、一見すると効率化の進展のように映るかもしれない。しかし、その裏で、若者の可能性を狭め、人材育成の機会を奪い、多様性を失わせるような風潮が生まれていないか、私たちは改めて立ち止まって考える必要がある。節約志向が生活習慣として定着する一方で、企業の人材獲得における「節約」が、将来への投資を怠る「浪費」になっていないか。そんな懸念を抱きつつ、この「求める人材ボックス」の増加という現象を注視していきたい。
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