デジタル庁の「進撃」、国民の目線で語るべき時
デジタル庁が、国民の生活に直結する大規模な動画コンテンツの公開に踏み切ったという。政府が国民への情報発信に力を入れる姿勢は、当然のことながら歓迎されるべきだろう。しかし、その「進撃」とも言える姿勢には、保守的な立場からいくつかの懸念を抱かざるを得ない。
まず、この動画コンテンツがどのような目的で、いかなる内容をもって制作されたのか、その詳細が十分に開示されているとは言い難い。デジタル化、DX（デジタルトランスフォーメーション）という言葉が先行し、その恩恵ばかりが強調されがちだが、それらはあくまで手段であって目的ではない。国民一人ひとりの生活を豊かにし、社会全体をより良くするという「目的」が、この動画コンテンツを通じて明確に、そして誠実に伝えられているのであろうか。
我々保守層は、変化そのものに懐疑的というわけではない。むしろ、伝統や実績に裏打ちされた確かな進歩を重んじる。デジタル化がもたらす効率化や利便性は理解できるが、その一方で、これまで長年培われてきた慣習や、人間的な温かみといった、目に見えにくい価値が損なわれるのではないかという危惧も拭えない。特に、情報発信というデリケートな領域において、過度な「デジタル化」が、国民との間に距離を生み出す可能性はないだろうか。
また、大規模な動画コンテンツの制作・公開には、当然ながら相応のコストがかかる。その費用対効果は、国民の税金という側面からも厳しく問われなければならない。国民の理解と納得を得られるような、透明性のある説明責任が求められるのは言うまでもない。
デジタル庁の意欲は認めたい。しかし、その「進撃」は、国民の目線に立ち、国民の疑問や不安に真摯に耳を傾けながら進むべきである。一方的な情報発信ではなく、国民との対話を通じて、デジタル化の真の意義や、それがもたらす影響について、共に考え、共に歩む姿勢が不可欠だ。
今回の動画コンテンツ公開が、国民の理解を深め、デジタル化への信頼を築く一歩となることを願う。だが、それはあくまで「第一歩」に過ぎない。デジタル庁には、今後も国民一人ひとりの声に寄り添い、丁寧な説明を重ねながら、信頼される行政の姿を示していくことを期待したい。
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