CD再生文化、このまま失われてよいのか
HMVがクラシック中古CDを大量放出するというニュースに接し、一抹の寂しさを禁じ得ない。かつて、CDというメディアが音楽鑑賞の中心であった時代を思えば、その隆盛を支えた店舗が、在庫整理という形で過去の遺物を手放していく現状は、一つの時代の終わりを告げているかのようだ。
もちろん、音楽の楽しみ方は多様化し、ストリーミングサービスなどが隆盛を極める現代において、CDという物理メディアへのこだわりは、一部の愛好家に限られるのかもしれない。しかし、CDには、ジャケットのアートワークを眺め、ブックレットに記された解説を読みながら、じっくりと音楽と向き合うという、デジタル配信にはない豊かさがあった。そして、中古CD市場は、そうした音楽への深い愛情を持つ人々にとって、貴重な音源との出会いの場であり、経済的な負担を抑えながら音楽の世界を広げるための大切な手段であったはずだ。
今回のHMVの動きは、単に中古CDの在庫処分というビジネス上の判断かもしれない。しかし、その背景には、CDというメディアそのものの需要の低迷、そしてそれを取り巻く文化の希薄化があるのではないか、と危惧せざるを得ない。
音楽は、時代とともにその表現方法や伝達手段を変えてきた。それは自然な流れであり、否定すべきものではない。しかし、我々が失いかけているものは、単なる物理メディアの普及率だけではない。それは、音楽を深く味わい、その背景にある物語や歴史に触れようとする、ある種の「丁寧さ」ではないだろうか。
デジタル化の波は、利便性と引き換えに、音楽との距離感を希薄にした側面もある。指先一つで膨大な数の楽曲にアクセスできるようになった一方で、一つの作品にじっくりと向き合う機会は減っているのかもしれない。中古CD市場の縮小は、そうした現代の音楽消費のあり方を映し出しているようにも思える。
このまま、CDが博物館の展示物のように扱われるようになり、その再生文化が静かに失われていくのであれば、それは文化的な損失であると言わざるを得ない。我々一人ひとりが、音楽との付き合い方を見つめ直し、物理メディアに宿る価値を再認識することが、今、問われているのではないだろうか。HMVの決断を、単なるニュースとして片付けるのではなく、音楽文化のあり方を考える契機として捉えたい。
HMVがクラシック中古CDを大量放出！7月21日（月）は要チェック！,HMV
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