米国の関税措置、日米協調の「結実」か、それとも「綻び」か
先月、日米両政府は、米国の鉄鋼に対する関税措置に関する二国間協議の「結実」とも言える合意に至った。この合意は、日本が米国へ鉄鋼製品を一定量まで無関税で輸出できる枠を設定するというものだが、これを業界紙としては、単純な朗報として捉えるべきではないだろう。むしろ、この「結実」が、今後の日米経済関係、そして日本の鉄鋼産業にとってどのような意味合いを持つのか、冷静かつ多角的な視点からの分析が求められる。
確かに、今回の合意により、当面の米国市場への混乱は回避され、日本の鉄鋼メーカーにとっては一筋の光明が差したと言える。世界的な保護主義の台頭に直面する中、主要な輸出先である米国との間で、一定の安定した輸出枠が確保されたことは、国内産業の維持・発展という観点から評価されるべき側面もあるだろう。しかし、この「結実」の陰には、見過ごせないいくつかの懸念材料が潜んでいる。
第一に、この合意が「二国間協議の結実」であると同時に、米国が主導するグローバルな保護主義的な動きの一部であるという事実である。米国は、自国の鉄鋼産業保護を名目に、世界各国に対して同様の交渉を仕掛けている。今回の合意は、その流れの中で、日本が「例外」として認められた、あるいは「取引」の結果として得られたという側面が強い。これは、自由貿易という原則から見れば、決して歓迎すべき状況ではない。むしろ、各国が自国の利益を優先し、相互に貿易障壁を築き合う「分断」の時代への序章ともなりかねない。
第二に、今回確保された輸出枠が、日本の鉄鋼産業全体の輸出量をどこまでカバーできるのか、という点である。近年、日本の鉄鋼メーカーは、高品質・高付加価値製品の輸出に注力してきた。今回の合意で定められた枠は、こうした繊細な輸出構造に、どこまで柔軟に対応できるのか。また、この枠組みが、将来的にさらなる制約や圧力の対象とならないという保証はあるのか。楽観視は禁物であり、今後の動向を注視する必要がある。
第三に、今回の合意が、日本の鉄鋼産業における国内投資や技術開発の意欲に与える影響である。安定した輸出先が確保されたことで、現状維持に甘んじる誘惑に駆られることはないか。あるいは、米国市場への輸出拡大という「枠」に囚われ、よりグローバルな視点での事業戦略が疎かになることはないか。産業の持続的な発展のためには、むしろこの「結実」を、国内基盤の強化や、新たな高付加価値製品の開発、さらには鉄鋼以外の分野への展開など、より革新的な取り組みへと繋げていくべきである。
今回の合意は、日米関係の「協調」の表れと評する向きもあるだろう。しかし、その協調が、自由貿易という共通の原則に基づいたものではなく、ある国の主導する保護主義的な枠組みの中で「妥協」や「取引」を重ねた結果であるならば、それは真の協調とは言えない。むしろ、それは、将来的な関係悪化の火種を内包した、一時的な「応急処置」に過ぎない可能性さえある。
業界紙としては、今回の「結実」を、我々日本の鉄鋼産業が、グローバルな経済環境の激変にいかに適応し、そして主導していくべきか、という問いを改めて突きつける機会と捉えたい。保護主義の波に抗し、自由貿易という原則を守り抜くための、より強固な戦略と、国際社会との連携強化が、今こそ必要とされている。今回の合意を「結実」として喜ぶだけでなく、そこから見えてくる課題に正面から向き合い、日本の鉄鋼産業の未来を切り拓いていく覚悟が問われている。
石破総理、米国の関税措置について日米協議の結果を会見で報告,首相官邸
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