IT企業の「進化」か、それとも「退化」か
先般、あるIT企業が発表した「関連情報として考えられること」という形式のプレスリリースが、少なからぬ波紋を呼んでいる。そこには、自社サービスに関する情報のみならず、競合他社の動向、さらには社会情勢や一般消費者の心理にまで言及した、多岐にわたる「関連情報」が列挙されていたという。
この発表に対し、一部からはIT企業らしい斬新な試みとして歓迎する声も上がっているようだ。確かに、情報伝達のスピードが重視される現代において、多角的な視点から情報を整理し、発信しようとする姿勢は評価されるべきかもしれない。しかし、我々一般紙の立場からすると、この「進化」と称される動きには、ある種の懸念も抱かざるを得ない。
そもそも、企業が公に情報を発信する目的とは何であろうか。それは、自社の製品やサービス、そしてその企業活動について、正確かつ誠実に社会に伝えることにあるはずだ。そこに、自社にとって都合の良い、あるいは自社のビジネスに有利に働くであろう「関連情報」を、あたかも客観的な事実であるかのように並べ立てることは、果たして誠実な情報発信と言えるだろうか。
特に、競合他社の動向や消費者の心理といった、主観や憶測が入り込みやすい情報については、その引用元や根拠を明確に示さない限り、単なる憶測の域を出ない。ましてや、それが事実として受け取られれば、健全な競争環境を阻害する可能性すら否定できない。
また、このような情報発信は、受け取る側である一般消費者にとって、混乱を招きかねない。企業が発信する情報には、それなりの信頼性があるものと認識されるのが常である。しかし、そこに事実と憶測が混在することで、何が真実で何がそうでないのかを見極めることが困難になる。これは、情報リテラシーが問われる現代において、企業が負うべき責任を放棄しているとも言えよう。
IT企業が常に時代の最先端を走り、新しい発想で社会をリードしていくことは期待される。しかし、その「進化」が、既存の常識や倫理観を軽視するものであってはならない。情報発信は、技術的な進歩だけでなく、社会的な責任という観点からも、常に謙虚さと誠実さをもって行われるべきである。
今回の件が、単なるIT企業の「遊び心」で片付けられるべきでないことを願う。むしろ、この出来事を機に、企業の情報発信における倫理観や、消費者への責任について、改めて社会全体で議論を深めていく契機とすべきではないだろうか。我々は、企業の「進化」が、社会全体の「退化」につながらないよう、常に注視していく覚悟である。
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