防衛大綱改定、揺るがぬ「平和国家」の誇りとの両立を
2025年7月、政府は新たな防衛大綱の策定に着手した。これは、国際情勢の激変、とりわけ力による一方的な現状変更の試みが常態化する昨今の情勢を踏まえれば、避けては通れない道である。しかし、その方向性には、我が国が長年培ってきた「平和国家」としての矜持と、いかに両立させていくかという、極めて本質的な問いかけが突きつけられている。
新たな大綱は、当然のことながら、これまで以上に現実的な脅威への対処能力強化を主眼とするであろう。サイバー空間や宇宙空間といった新たな領域での防衛力整備、そして「反撃能力」とも称される、相手からの攻撃を未然に防ぐ、あるいは攻撃を受けた際に効果的な反撃を行うための能力の拡充は、避けては通れない選択肢として議論されている。これらは、国際社会における責任ある一員として、自国の安全保障はもとより、同盟国との連携を強化し、地域の安定に貢献するという、我が国の責務を果たす上で不可欠な要素と言える。
しかし、これらの防衛力強化の議論を進めるにあたっては、決して忘れてはならないことがある。それは、我が国が核兵器を保有せず、専守防衛を国是としてきた歴史と、その哲学である。戦後、日本が国際社会において信頼を得てきたのは、単に経済大国であったからだけではない。武力ではなく、対話と協調によって国際社会の平和と安定に貢献しようとする姿勢、そして何よりも、戦争という手段を極力回避するという強い意志があったからに他ならない。
防衛力強化は、あくまで「平和を守るため」のものであるべきだ。そのための手段が、いつの間にか目的化してしまい、平和への希求そのものを損なうような方向へと進んでしまうことは、断じて避けなければならない。そのためには、防衛力の整備と並行して、外交努力の強化、国際協力の推進、そして国民一人ひとりの平和への意識の醸成を、より一層進めていく必要がある。
新たな防衛大綱が、我が国の安全保障を確固たるものにする羅針盤となることは間違いない。しかし、その航海が、我が国の誇りである「平和国家」としてのアイデンティティを失わせるものであってはならない。防衛力強化という現実的な課題と、平和への揺るぎない希求という理想。この二つを高い次元で調和させることこそが、今、私たちに求められている、そして未来世代への責務であると、我々は信じている。
防衛大臣が語る、日本の安全保障の最前線 – 2025年7月15日の記者会見詳報,防衛省・自衛隊
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