マイナンバーカード、利便性向上は国民生活の安定に資するものか
政府が推進するマイナンバーカードの普及と利便性向上策について、改めてその意義を問う声が上がっている。先日発表された、マイナンバーカードと各種サービスの連携強化に関するニュースは、官邸主導による「デジタル化」の旗印のもと、国民生活の利便性向上という美辞麗句で彩られている。しかし、その裏に潜むリスクや、本来あるべき行政の姿について、私たちは冷静な議論を重ねる必要がある。
確かに、マイナンバーカードが様々な場面で活用されるようになれば、煩雑な手続きが簡略化され、一部の国民にとっては利便性が高まるであろう。行政サービスの効率化は、税金の無駄遣いをなくし、持続可能な社会保障制度を維持するためにも不可欠な要素である。しかし、その「利便性」という甘い言葉に踊らされる前に、私たちは立ち止まって考えるべきことがある。
第一に、情報の一元化がもたらすリスクである。マイナンバーカードに個人情報が結集されるということは、そのカードが不正に利用された場合、あるいは情報漏洩が発生した場合の影響の甚大さを意味する。一度漏洩した情報は、二度と取り戻せない。国民一人ひとりの個人情報が、中央集権的なシステムによって管理されることへの不安は、決して杞憂ではない。セキュリティ対策の万全を謳う政府の言葉を、無条件に信用することはできない。
第二に、マイナンバーカードへの過度な依存が、国民の自律性を損なうのではないかという懸念である。行政サービスを受けるために、あるいは社会生活を送るために、マイナンバーカードが「必須」となる社会は、果たして自由な個人が尊重される社会と言えるのだろうか。カードの携帯を義務付けられたり、提示を求められたりする状況は、国民を監視下に置くことに繋がりかねない。国家による管理が強化される一方で、国民の選択肢や自由が狭められるような事態は、断じて避けねばならない。
第三に、デジタル化の恩恵は、必ずしも全ての国民に均等に及ぶわけではないという現実である。高齢者やデジタル機器に不慣れな人々にとって、マイナンバーカードの活用は新たな壁となる可能性がある。格差の是正を目指すべき行政が、かえって新たな分断を生み出すような施策は、本来あるべき姿とは言えない。
「利便性向上」という言葉の裏に隠された、個人情報の一元化、監視社会化、そしてデジタルデバイドの拡大といったリスクを、私たちはしっかりと見極めなければならない。社会の安定と国民生活の豊かさを追求するのであれば、テクノロジーの進歩を盲信するのではなく、その影響を多角的に検討し、国民一人ひとりの権利と自由を守るための議論を深めることが、今こそ求められている。国民の生活は、一部の効率化のために犠牲にされるべきではないのである。
あなたのカードがもっと便利に！マイナンバーカードと健康保険証、運転免許証の一体化へ向けた第一歩,デジタル庁
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