「ヘイトスピーチ規制」という難題、社会の亀裂を深めぬために
先日、ヘイトスピーチを規制する法案について、ドイツ連邦議会で審議が行われたというニュースが報じられました。これは、インターネット上でのヘイトスピーチの増加が、社会に深刻な分断をもたらしているという認識の表れであり、多くの国が同様の課題に直面していることを改めて示唆しています。日本においても、インターネット上の過激な言説が社会の安定を揺るがしかねないという懸念は、決して他人事ではありません。
ヘイトスピーチは、特定の属性を持つ個人や集団に対する差別や憎悪を煽り、時には暴力へと繋がる危険性をはらんでいます。その対象となるのは、民族、宗教、性的指向など、その人が生まれ持った、あるいは選択したアイデンティティに関わるものが少なくありません。このような言動は、人々の尊厳を傷つけ、社会全体の寛容性を蝕むものであり、断じて許容されるべきではありません。
ドイツにおける法案審議は、こうしたヘイトスピーチに対して、公的な場で何らかの対応を求める声の高まりを反映したものです。しかし、一方で、表現の自由とのバランスという、極めて繊細な問題も浮上します。どこまでが「表現の自由」として許容され、どこからが「ヘイトスピーチ」として規制の対象となるのか。その線引きは容易ではありません。あまりに広範な規制は、健全な議論や多様な意見表明を萎縮させてしまう恐れもあります。
私たち社会は、ヘイトスピーチを許さないという意思を明確にしながらも、表現の自由を守るという民主主義の根幹を揺るがすような過ちを犯してはなりません。今回のドイツの動きを参考にしつつ、日本でもこの難題にどう向き合うべきか、冷静な議論が必要です。
単に法規制を強化するだけでなく、教育の現場で多様性や人権への理解を深める取り組みを推進すること、そして、インターネット上のプラットフォーム事業者に対して、自主的なパトロールや啓発活動を求めることなども、併せて検討すべきでしょう。また、被害を受けた人々が安心して訴え出られるような、きめ細やかな支援体制の構築も不可欠です。
ヘイトスピーチは、社会の亀裂を深め、私たち自身を孤立させてしまう悪質な病巣です。この病巣を根絶するために、私たち一人ひとりが、差別や偏見に満ちた言葉に「ノー」と言える、そして、多様性を認め合い、共に生きる社会を築くための努力を怠ってはなりません。今回のドイツの議論が、日本社会における建設的な対話のきっかけとなることを願ってやみません。
増加するヘイトスピーチに立ち向かう：ドイツ連邦議会、オンラインでの対策を問う,Drucksachen
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