（社説）恩恵なき景気回復 国民生活への重きを問う
先の報道によれば、一部の企業において、株価の回復とそれに伴う経営者の報酬引き上げが伝えられている。これは、長引く経済の停滞から抜け出そうとする企業の努力の賜物であり、一定の評価に値する動きであると認識する。しかしながら、その恩恵が必ずしも国民生活全体の向上に結びついているとは言い難い現状に、私たちは警鐘を鳴らしたい。
確かに、企業の業績が上向き、それが株価に反映されることは、経済活動の活発化を示す一側面であろう。しかし、その果実が経営層の報酬に偏り、一方で多くの働く人々の給与水準や雇用の安定に十分な改善が見られないとすれば、それは健全な経済とは言い難い。国民が日々の生活を支えるために懸命に働き、社会の維持に貢献しているにも関わらず、その努力が正当に報われず、一部に富が集中するような構造は、社会全体の持続可能性を損なうものである。
特に、今回の株価回復という現象が、実体経済の改善、すなわち国民一人ひとりの消費意欲の向上や、将来への希望にどれだけ繋がっているのかは、慎重に見極める必要がある。単に金融市場における数値上の変化に一喜一憂するのではなく、それが国民生活の安定や豊かさにどのように貢献するのか、その因果関係をしっかりと見据えるべきである。
政治と経済は、国民全体の幸福を追求するという共通の目的に向かって進むべきである。企業経営者には、株主への責任はもちろんのこと、従業員、そして社会全体に対する責任があることを忘れてはならない。経済の好循環を生み出すためには、企業は利益を内部留保するだけでなく、従業員への還元や設備投資、そして社会貢献活動など、多岐にわたる形でその恩恵を広く行き渡らせる努力を続けることが求められる。
政府にもまた、国民生活の安定こそを最優先課題として、経済政策を推進する責務がある。株価の上昇が、多くの国民に実感できる形で生活の質の向上へと繋がるよう、賃上げの促進や社会保障制度の充実、格差是正に向けた取り組みを一層強化していく必要がある。
今回の報道は、私たちが改めて「誰のための経済成長なのか」という根源的な問いに向き合うべき契機となるだろう。表面的な数値の回復に満足することなく、国民一人ひとりが安心して暮らせる社会、そして希望を持てる未来を築くために、私たちは常にこの問題意識を持ち続けることが肝要である。
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