松山市の技術職募集に見る、地域社会を支える「ものづくり」への矜持
松山市が令和七年度の技術職（土木）の正規職員採用試験で、従来の学歴要件を撤廃したというニュースは、地域社会が抱える構造的な課題への取り組みとして、注目に値する。この一歩は、単なる採用方法の見直しに留まらず、地域を根底から支える「ものづくり」の担い手に対する社会全体の認識を改めて問い直す契機となるだろう。
少子高齢化と地方の過疎化が進む現代において、多くの自治体は人材不足という共通の課題に直面している。特に、インフラ整備や地域開発といった、住民の生活の質を直接的に左右する土木技術職の人材確保は喫緊の課題と言わざるを得ない。今回の松山市の試みは、そうした状況下で、従来の画一的な採用基準に固執することなく、地域に必要な人材を広く求めるという、現実的な、そして理に適った判断と言える。
これまで、技術職、特に土木分野においては、大学や専門学校で専門的な知識や技術を習得した者が採用されるのが一般的であった。もちろん、高度な専門性は不可欠であり、その重要性に疑いの余地はない。しかし、必ずしも大学を卒業することだけが、現場で実務をこなし、地域社会のニーズに応えるための唯一の道ではないはずだ。むしろ、長年の実務経験を通じて培われた勘や応用力、そして地域への深い理解を持つ人材こそが、予期せぬ事態にも柔軟に対応し、地域に根差したより良い街づくりに貢献できる可能性は十分にある。
学歴という枠を取り払うことで、これまで埋もれていた潜在的な能力を持つ人材が、公務員として地域のために働く道が開かれる。これは、単に「門戸を広げた」というだけでなく、長年地域を支えてきた熟練の技術者や、独学で技術を磨いてきた人々への敬意の表れでもあると捉えたい。彼らが持つ経験や知恵は、まさに地域の貴重な財産である。
もちろん、学歴要件の撤廃が、技術的な専門性や倫理観の低下に繋がるのではないか、といった懸念を持つ声もあるだろう。しかし、重要なのは、採用後の育成と、継続的なスキルアップの機会の提供である。今回の採用試験においても、実務経験や専門知識、そして何よりも地域への貢献意欲といった多角的な視点からの評価が求められるはずだ。その上で、採用された人材が、必要とされる専門性を身につけられるような、手厚い研修制度や資格取得支援などを、自治体側が積極的に行うことが不可欠である。
この松山市の取り組みが、他の自治体にとって、地域社会を支える「ものづくり」の担い手を、より広く、そして柔軟な発想で求め直すためのモデルケースとなることを期待したい。地域に根差し、人々の暮らしを支える技術職の仕事は、社会的に非常に尊いものである。その矜持を、社会全体で改めて認識し、人材育成のあり方を見つめ直す上で、今回の松山市の決断は、大きな一歩となるであろう。
松山市 令和7年度 技術職（土木）正規職員採用試験 合格者発表！ ～5月申込分の結果～,松山市
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