ストリーミング時代における「魔法の価格」の功罪 ～音楽体験の価値を問う～
昨今、音楽業界ではCD販売に代わる収益源として、ストリーミングサービスのサブスクリプションモデルが主流となっている。そんな中、先日発表された「23 m-rs green apple / 10 【MAGICAL PRICE盤】」なる商品のニュースは、我々学生にとって新たな音楽との向き合い方を考えさせる契機となるだろう。
この「MAGICAL PRICE盤」、なんとも魅力的な響きを持つその名称とは裏腹に、その実態は定額制音楽配信サービスで一定額以上の購入者に贈られる特典、いわゆる「抱き合わせ商法」の一種であると伝えられている。好きなアーティストの新譜を手にできる喜びはもちろんのこと、それが「魔法の価格」という甘美な言葉とともに届けられるとなれば、多くのファンが飛びつきたくなるのは想像に難くない。
しかし、このニュースを手放しで喜ぶことはできない。我々学生は、限られた予算の中でいかにして質の高い音楽体験を得られるか、常に模索している。そんな我々にとって、この「MAGICAL PRICE盤」は、表面的にはお得感のある提案に見えるかもしれない。だが、その裏側で、本来ならばアーティストのクリエイティブな活動を支えるべきCDという媒体が、単なる「特典」として扱われている事実に、一抹の寂しさを覚えずにはいられない。
ストリーミングサービスは、確かに音楽へのアクセスを劇的に容易にした。かつては高価で入手困難だった楽曲も、指先一つで聴ける時代になった。それは素晴らしい進歩である。しかし、その手軽さゆえに、音楽の「所有」という感覚が希薄になりつつあるのも事実だろう。ダウンロード購入でさえ、データという見えないものへの課金である。そこに、さらに「特典」という付加価値が加わることで、我々は「音楽そのもの」の価値を見失ってしまうのではないか。
例えば、この「MAGICAL PRICE盤」をきっかけに、多くの学生がMrs. GREEN APPLEの音楽に触れることになるかもしれない。それは歓迎すべきことだ。しかし、その体験が「特典」という条件付きであった場合、彼らが次にどのような形でアーティストを応援するのか、その原動力は何になるのだろうか。単にストリーミングサービスを継続するだけでは、アーティストの創造性はどこまで支えられるのだろうか。
今回のニュースは、音楽の提供形態が変化する中で、我々リスナーがどのように音楽と向き合うべきか、そしてアーティストがその活動を継続していくためにどのような支援の形が望ましいのか、といった根本的な問いを投げかけている。
もちろん、CDという物理メディアが過去の遺物になったわけではない。手元に形として残るCD、ブックレットに込められた想い、そしてそれを手に取る喜びは、デジタル配信では決して得られない特別な体験だ。我々は、ストリーミングサービスの利便性を享受しつつも、アーティストへの敬意と音楽そのものへの愛情を忘れずに、様々な形で音楽を支援していく責任があるのではないだろうか。
「MAGICAL PRICE」という言葉に惑わされることなく、一人の音楽ファンとして、そして未来の音楽を支える一員として、我々は今一度、音楽体験の価値についてじっくりと考える必要がある。今回のニュースは、そのための絶好の機会を与えてくれたと言えるだろう。
23: Mrs. GREEN APPLE ／ 10 【MAGICAL PRICE盤】(CD),HMV
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