悠久の知を未来へ、大学の矜持を問う時
東京大学における卒業論文・修士論文執筆・提出時期の延長という決定は、多くの議論を呼んでいる。学術の府たる大学が、学生の学びを最大限に支援するという理念に基づくものであろうが、その一方で、厳格な規律と期限を守ることの重要性、そしてその責任について、改めて我々に問いかけている。
悠久の時を経て受け継がれてきた知の営み。その集大成とも言える論文に、本来であれば設定された期限という区切りは、学生の集約された努力と、その成果に対する責任を可視化する一つの儀式であった。この期限が設けられることで、学生は自らを律し、限られた時間の中で最大限の知的な格闘を強いられる。そこには、単に知識を詰め込むだけではない、人間としての成長を促す側面も確かに存在していたはずだ。
今回の措置は、学生の負担を軽減し、より質の高い研究を支援するという善意に基づくものだろう。しかし、安易な期限延長は、学生の学習意欲を削ぎ、自律性を損なう危険性も孕んでいる。社会に出れば、常に期限という現実が待ち受けている。その中で、自らの責任において、与えられた課題を完遂する能力は、現代社会を生き抜く上で不可欠な資質と言えるのではないか。
我々は、大学という知的探求の場が、単なる知識の供給機関に留まるのではなく、社会を牽引する人材を育成する場であることを忘れてはならない。その育成の過程において、厳しさや規律といった要素は、時に厳しいが、しかし確かな成長を約束する栄養素となり得る。
今回の決定が、学生にとって単なる「甘え」を許容するものではなく、より深い学びへと繋がる「支援」として機能するのか、その行く末を注意深く見守りたい。大学には、その矜持にかけて、真に将来を担う若者を育むための、毅然とした姿勢が求められている。
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