未来への投資か、世代間格差の温床か：新規就農支援金「令和7」が問うもの
政府が打ち出した新規就農支援金「令和7」が、農業界に新たな波紋を広げている。若き担い手の育成という大義のもと、手厚い財政的支援を打ち出すこの政策は、一見すると未来への希望に満ちた投資であるかのようだ。しかし、その光の裏には、既存農家との格差拡大や、将来的な持続可能性への懸念といった、より深く掘り下げるべき課題が横たわっている。
もちろん、日本の食料自給率低下が叫ばれる今、新たな人材を農業に呼び込むことの重要性は言うまでもない。特に、高齢化が進む農業界において、若者の情熱と柔軟な発想は、新たな技術導入や販路開拓の起爆剤となり得る。補助金という形でその初期ハードルを下げることは、ある種の合理性を持っていると言えよう。
しかし、この「令和7」が描く未来図には、幾つかの不可解な点、あるいは危うさも感じ取れる。まず、支援金の対象を「新規」に限定すること自体が、既存の農家に対する配慮に欠けるのではないかという疑念である。長年、地域農業を支え、その発展に貢献してきた人々への敬意はどこにあるのか。勤勉に働き、設備投資や技術習得に自己資金を投じてきた農家が、後から参入してきた若者に手厚い支援を受ける姿を目の当たりにした時、彼らの士気が著しく低下する可能性は否定できない。これは、世代間の断絶を助長し、農業コミュニティ全体の分断を招きかねない危険な兆候である。
さらに、この支援金が、真に持続可能な農業経営に繋がるのかという点も、冷静に検証されるべきだ。補助金に依存した経営が、その恩恵が終わった後に立ち行かなくなるという皮肉な結果を招くことは、歴史が証明している。本当に求められているのは、一時的な金銭的支援ではなく、農業経営のノウハウ、地域との連携、そして市場の変化に対応できるビジネスモデルの構築を支援することではないだろうか。今回の支援金は、その本質的な課題から目を逸らさせ、短絡的な成果主義に陥る危険性を孕んでいる。
「令和7」は、若き農家の皆さんにとっては、確かに追い風となるだろう。しかし、この風が農業全体の未来を照らすのか、それとも一部の層だけを潤し、構造的な歪みをさらに深めるのか。政府は、支援金の分配だけでなく、その後のフォローアップ、そして既存農家との共存共栄の道筋についても、より具体的かつ丁寧な説明責任を果たす必要がある。
この国が未来永劫、豊かな大地と豊かな食卓を守り続けるためには、一部の特権ではなく、全ての農業従事者が誇りを持って働ける環境整備が不可欠である。今回の支援金が、単なる一時的なバラマキに終わることなく、真に日本の農業を根幹から強くする契機となることを、切に願う。そのためには、制度設計の公平性と、長期的な視点に立った運用こそが、問われているのである。
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