人工ゲノムの「功罪」を冷静に見つめ直す時
遺伝子組み換え技術、とりわけゲノム編集技術の進展は目覚ましいものがある。もはやSFの世界の話ではなく、私たちのすぐ隣まで科学技術が迫ってきていることを実感させるのが、今回の「ゼロからつくる『人工ヒトゲノム』：科学のフロア」という見出しのニュースである。このニュースが示すように、生命の根幹に関わる領域で、人間がどこまで踏み込むべきなのか、改めて深く考えさせられる。
科学の進歩は確かに人類に多大な恩恵をもたらしてきた。病気の克服、食糧問題の解決など、その功績は計り知れない。しかし、人工的にヒトゲノムを作り出すという領域にまで至ると、その先に待ち受ける未来像に、我々は安易に楽観視するわけにはいかない。
そもそも、人間のゲノムとは、長きにわたる進化の過程で形成された、生命の設計図ともいうべき複雑かつ精緻なシステムである。そこに人間の都合や意図によって手を加えることは、いったいどのような影響を及ぼすのか、現時点では未知数な部分があまりにも多い。例えば、特定の能力を向上させる、あるいは特定の疾患を排除するといった目的でゲノムを改変した場合、それが予期せぬ副作用を引き起こしたり、あるいは生命の多様性を損なう結果に繋がったりする可能性は否定できない。
また、こうした技術が一部の富裕層にしか利用できないといった状況になれば、遺伝子レベルでの格差、いわゆる「遺伝子格差」を生み出し、社会の分断をさらに深める恐れもある。生命の尊厳や公平性といった、人間社会の根幹をなす価値観が揺るがされる事態は、断じて避けねばならない。
もちろん、科学技術の発展そのものを否定するつもりはない。むしろ、その可能性を慎重に探求していくことは、人類の未来にとって不可欠である。しかし、その歩みは、常に倫理的な制約と、社会全体の幅広い議論の上に成り立つべきだ。今回のニュースを機に、改めて私たちは、科学が持つ「光」だけでなく、その「影」の部分にも目を向け、人類の英知を結集して、責任ある未来を築いていく努力を怠ってはならない。安易な技術万能主義に陥ることなく、謙虚な姿勢で生命の神秘に敬意を払いながら、一歩ずつ進むことの重要性を、改めて噛みしめるべきであろう。
ゼロからつくる「人工ヒトゲノム」：科学のフロンティアと倫理的課題,Korben
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