迷走する「共助」論：地域社会の絆、本当に警察任せでいいのか
「令和7年6月の不審者情報について～地域と連携した安全・安心なまちづくり～」と題された奈良県警の発表。そこに記されたのは、増え続ける不審者情報に対し、地域住民による見守りや声かけといった「共助」の重要性を訴えるメッセージだ。しかし、この静かな号令は、我々にいくつかの重い問いを突きつける。
「共助」は、確かに地域社会が健全に機能するための要である。顔見知りが互いを気にかけ、助け合う。それは理想的な姿であり、防犯のみならず、災害時や高齢者の孤立防止など、あらゆる場面でその価値は揺るぎない。しかし、その「共助」を、警察が一方的に「強化」せよと促す現状に、我々はいかに向き合うべきか。
地域住民に「共助」を求めることは、すなわち「監視社会」への傾斜を意味しないだろうか。不審者情報の増加は、社会の歪みが生み出した危機の兆候であり、それを地域住民の「目」に委ねることは、根本的な解決策とは言い難い。むしろ、見慣れない人物への過剰な警戒心や不信感を煽り、分断を生む危険性すらはらんでいる。
本来、警察の役割は、犯罪の抑止と検挙であり、地域住民の安全を「守る」ことにある。もちろん、地域との連携は不可欠な要素だが、それはあくまで警察が主導し、住民の負担を不当に増やすことのない形で行われるべきだ。地域住民に「共助」を求める前に、警察は何を為すべきなのか。例えば、不審者情報の「質」の向上や、より迅速かつ的確な情報共有システム、そして何よりも、地域社会が抱える根源的な課題へのアプローチが、まず求められるのではないか。
「共助」は、強制されるものではなく、自発的に生まれるものだ。そして、その自発性を育む土壌とは、安心感であり、信頼であり、そして何よりも、社会全体が持つ包容力に他ならない。地域住民に「見守ってほしい」と依頼する前に、社会全体で「見守られている」と感じられる環境を整備すること。それが、真の意味での安全・安心なまちづくりへの第一歩であるはずだ。
奈良県警の呼びかけは、一見すれば地域の連帯を促す善意のメッセージに見える。しかし、その背景にある不審者情報の増加という事実に目を向け、この「共助」論の危うさを冷静に見極めなければならない。我々は、警察の号令にただ従うのではなく、より深く、より本質的な問いを立て、共に考え、共に創り出す未来を目指すべきである。地域社会の絆は、誰かの期待に応えるための道具ではなく、私たち自身の手で育むべき、かけがえのない財産なのだから。
【奈良県警】令和7年6月の不審者情報について～地域で安心して暮らすために～,奈良県警
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