生成AI図書館体験は、知への新たな扉か、それとも深淵か
近年、生成AIの急速な発展は、私たちの社会生活のあらゆる側面に影響を与え始めている。その波は、古き良き学びの殿堂である図書館にも及んでいる。京都大学附属図書館が生成AIを活用した新たな検索体験の提供を開始したというニュースは、多くの注目を集めると同時に、我々に深い問いを投げかけている。
生成AIによる検索体験は、確かに魅力的である。膨大な蔵書の中から、より直感的かつ効率的に目的の情報を探し出すことができると期待される。これまで辿り着けなかった知の断片が、AIの助けを借りることで繋がり、新たな発見をもたらすかもしれない。それは、知的好奇心を刺激し、学問研究に新たな可能性を開くものとして、歓迎されるべき進歩であろう。
しかし、我々は冷静さを失ってはならない。生成AIは、あくまでも「生成」する存在であり、その「生成」が常に真実、あるいは正確であるとは限らない。AIは学習データに依存し、そこに内在する偏見や誤りが反映される可能性も否定できない。特に、学問の世界においては、情報の正確性、出典の信頼性が何よりも重要である。AIが提示する情報が、たとえもっともらしく見えても、その裏付けや根拠を自ら確認する努力を怠るならば、それは知への安易な近道となり、かえって深い理解から遠ざかる危険性を孕んでいる。
また、図書館の本質とは何であろうか。それは単に情報を格納する倉庫ではない。そこには、先人たちが積み重ねてきた知恵、多様な価値観、そして時間をかけて紡ぎ出された思想が、紙という媒体を通して息づいている。本を手に取り、ページをめくり、行間に込められた著者の熱意や思考を感じ取る営みは、AIによる無機質な情報提示とは異なる、豊かな知的体験である。生成AIが、この人間的な知との対話を代替してしまうのではないかという懸念は、拭いきれない。
京都大学附属図書館の試みは、図書館の未来を考える上で重要な一歩となるだろう。しかし、その過程で、AIの利便性と、知の本質とのバランスをいかに取るべきか、私たちは真剣に議論する必要がある。AIはあくまでも「道具」であり、我々自身の知性を磨き、深く思考するための「補助線」として活用されるべきである。生成AIに依存しすぎるあまり、自ら考え、調べ、真偽を見極める力を失うことは、知的な成熟にとって最も避けなければならない道である。
図書館が、生成AIという新たな扉を開くとき、それは単なる情報検索の高度化にとどまらず、知への新たな探求心を刺激するものであってほしい。同時に、我々は決して、本質的な知の営みを放棄することなく、むしろその重要性を再認識し、次世代へと継承していく責務を負っていることを忘れてはならない。
京都大学図書館、生成AIを活用した新しい検索体験「Summon Research Assistant」をベータ版で公開！,京都大学図書館機構
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