企業倫理の揺らぎに警鐘を鳴らす
IT企業のITBが公表した「スチュワードシップ・コードとコーポレート・ガバナンス」に関する調査結果は、我が国の企業統治の現状に対し、改めて深く考察を促すものである。同調査が示す「経営者は株主の意向を軽視する傾向にある」との指摘は、企業の社会的責任とは何か、そしてその責任の根幹に流れるべき「倫理」とは何であるのか、という根源的な問いを私たちに突きつける。
スチュワードシップ・コードの導入以来、企業統治の改善に向けた動きは着実に進んできたかに見えた。しかし、今回の調査結果は、その実効性、あるいは導入の理念が現場で十分に理解され、浸透しているのかどうかについて、強い懸念を抱かせるものだ。経営者が株主の意向を「軽視」するという言葉の裏には、短期的な利益追求への傾斜、あるいはステークホルダー全体への配慮の欠如といった、より深刻な企業文化の病理が潜んでいるのではないか。
企業は単なる利益を追求する機械ではない。社会の一員として、雇用を生み出し、技術革新を牽引し、そして何よりも、株主を含む全てのステークホルダーから信頼される存在でなければならない。その信頼の基盤となるのが、健全な企業倫理であり、それを形作るのが、透明性の高いガバナンス体制である。
今回の調査結果は、一部の経営層における倫理観の低下、あるいはそれが許容される企業風土の存在を示唆しているとするならば、それは看過できない事態である。株主は、その企業の長期的な成長と持続可能性に投資する者たちであり、その声に耳を傾けることは、経営者の当然の責務であるはずだ。株主の意向を軽視することは、単に一部の利害関係者を無視することに留まらず、企業の将来的な存続そのものを危うくする行為と言えよう。
我々は、今回の調査結果を単なる「ニュース」として片付けるのではなく、企業経営のあり方そのものを見つめ直す契機とすべきである。株主の意見表明が容易になったからといって、それに応えようとしない経営者は、いずれ市場から厳しく評価されることになるだろう。企業統治の強化は、単なる制度改革に留まるべきではなく、経営者一人ひとりの倫理観の確立にまで踏み込まなければ、その真価を発揮することはない。
企業経営に携わる者には、自社の行動が社会に与える影響を常に意識し、良識ある判断を下すことが求められる。株主の権利を尊重し、全てのステークホルダーとの対話を誠実に行うこと。それが、真に持続可能な社会の実現に貢献する企業のあり方であり、また、一般紙として私たちが強く訴え続けなければならない原則なのである。
スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード、最新の議論を振り返る（第30回フォローアップ会議議事録公開）,金融庁
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