若き才能よ、大学という「温室」を出よ
母校の学長という、いまだかつて誰も経験したことのない「大役」を掴んだ、若き日の卒業生。このニュースに触れ、私たちが抱く感情は、単なる驚嘆や祝福だけではないはずだ。むしろ、そこに潜む危うさ、そして、我々が抱えるある種の「停滞」への警告として受け止めるべきだろう。
京都大学を卒業し、わずか数年でその頂点に立った川口恭平氏。その輝かしい経歴は、確かに類稀なる才能の持ち主である証だろう。しかし、私が注視したいのは、その「若さ」それ自体ではなく、それがもたらすであろう大学という組織への影響、そして、それを招いた我々の社会構造への疑問符である。
大学は、本来、知の探求と次世代の育成という揺るぎない使命を持つ場であるはずだ。しかし、このニュースは、その「使命」が、どこか歪んでしまっているのではないかという疑念を抱かせる。学長という、本来であれば長年の経験と深い洞察に裏打ちされたリーダーシップが求められるポストに、なぜこれほど若い人物が就くことができたのか。そこには、大学が、もはや「知の殿堂」ではなく、「ビジネスライクな組織」へと変貌してしまった現実が映し出されているかのようだ。
もちろん、若さゆえの柔軟な発想や斬新な視点は、停滞しがちな組織に活力を与える可能性を秘めている。しかし、それはあくまでも「補助的な役割」であってこそ、その真価を発揮する。大学運営という、極めて複雑で繊細な舵取りを、果たして「温室で育った」ばかりの若者が、どこまで的確に行えるだろうか。過去の成功体験や既成概念に囚われることなく、しかし、歴史と伝統への敬意も忘れずに、という難題を、彼はどこまでクリアできるのか。
私たちが恐れるのは、大学が、あるいは我々の社会全体が、効率性や短期的な成果ばかりを追い求めるあまり、本質的な価値を見失ってしまうことだ。学長というポジションが、キャリアパスの「一段階」に過ぎなくなってしまったとしたら、それは学問の自由や、真理探究への情熱といった、大学が本来持つべき「輝き」を失わせることにつながりかねない。
川口氏が、その若さと才能を糧に、大学に新しい風を吹き込むことは、もちろん期待したい。しかし、それ以上に、我々大人世代こそが、このニュースを深く受け止め、自らの役割を問い直す必要があるのではないか。我々は、若者たちに「温室」ばかりを提供し、外の世界の厳しさを教えなかったのではないか。そして、彼らがその「温室」から、いかにして社会という広大な大地に根を張り、たくましく育っていくかの道筋を、十分に示せなかったのではないか。
このニュースは、単なる一人の卒業生の異例の抜擢ではない。それは、我々の社会が、若者の才能をどのように捉え、そして、その才能をいかに社会全体の糧としていくか、という壮大な問いかけなのである。若き才能よ、大学という「温室」を出て、厳しい現実の中でこそ、真の知恵と力を培い、我々の社会を、そして学問を、新たな次元へと導いてほしい。そのために、我々ができることは、ただ見守ることだけではないはずだ。
中京大学卒業生・川口友香さん、学園首脳陣を表敬訪問：未来への熱意を語る,中京大学
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