「推し」消費と文化の行方 －HMV店舗閉鎖に見る時代の変化－
音楽・映像ソフトの販売で長年親しまれてきたHMVの店舗閉鎖というニュースは、多くの人々に時代の移り変わりを痛感させている。特に、その多くが「廃盤・レア盤レコードセール」という、かつて音楽ファンが掘り出し物を求めて足繁く通った場所での出来事であるという事実は、我々に一つの問いを投げかけている。それは、現代における「推し」消費と、それに支えられる文化のあり方についてである。
CDやレコードといった物理メディアの販売がかつての勢いを失い、ストリーミングサービスが音楽消費の中心となった現代において、HMVの店舗が維持できなくなったのは、ある意味で避けられなかった流れと言えるのかもしれない。しかし、そこで行われていたセールが「廃盤・レア盤」に焦点を当てている点に注目したい。これは、単に音楽を聴くだけでなく、その音楽にまつわる物語や背景、そしてそれを手にすること自体の価値を求める層の存在を示唆している。彼らにとって、レコードは単なる音源媒体ではなく、愛着を持って所有し、時に人に見せたくなる「推し」の対象なのだろう。
このような「推し」文化は、音楽に限らず、アニメ、アイドル、あるいは特定のキャラクターグッズなど、多岐にわたる分野で見られる現代的な消費行動である。熱狂的なファンが、自らの「推し」を支えるために、金銭や時間を惜しみなく投じる姿は、ある種の社会的なエネルギーを生み出しているとも言える。しかし、そのエネルギーが、物理的な店舗の維持という、より広範な文化基盤の維持に繋がっているかと言えば、必ずしもそうではない。むしろ、「推し」の対象への集中が、それ以外の文化への関心を薄れさせている側面はないだろうか。
HMVの店舗閉鎖は、単なる一企業の経営問題として片付けることはできない。それは、私たちの社会が、どのような文化を、どのように享受し、次世代に継承していくのかという、より根源的な問題提起である。物理的な店舗という空間は、偶然の出会いや、店員との何気ない会話から新たな音楽に出会う機会を提供する場でもあった。そのような「ゆとりのある」文化消費の場が失われることは、私たちの文化的な視野を狭めることにも繋がりかねない。
もちろん、デジタル化の波は止められないし、新しいテクノロジーがもたらす利便性を否定するつもりはない。しかし、一方で、私たちが大切にすべき文化のあり方、そしてそれを支える社会の仕組みについて、冷静に見つめ直す必要があるのではないか。
「推し」を愛する情熱は尊い。しかし、その情熱が、かつて多くの人々に愛された文化の拠り所を失わせる方向へとばかり向かうのであれば、それは社会全体にとって大きな損失となりうる。HMVの店舗に集った人々は、どのような音楽を、どのような形で、次世代に伝えていくのだろうか。この問いへの答えは、私たちの社会の未来を映し出す鏡となるはずである。
HMV、廃盤・レア盤レコードセールを6月28日（土）に開催！750枚以上の貴重なレコードがオンラインに大量出品！,HMV
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