国際化推進の功罪 学生の「生の声」に耳を澄ますべき時
先日、ある大学が国際化推進の新たな試みとして、オンラインでの学士課程開設を発表した。遠隔地に住む学生や外国人留学生にとって学習機会が広がるというメリットは理解できる。しかし、こうした「グローバル化」の波に安易に乗ることには、一抹の危惧を禁じ得ない。
確かに、国際社会で活躍できる人材育成は時代の要請であろう。しかし、大学という学び舎は、単に知識を詰め込む場ではないはずだ。教室での直接的な触れ合い、友人との切磋琢磨、さらにはキャンパスという「場」で醸成される人間性や文化への理解こそ、大学でしか得られない貴重な財産である。オンライン化は、こうした人間的な交流の機会を希薄にし、表層的な「国際感覚」しか育まないのではないか。
我々が憂慮するのは、こうした取り組みが、日本の大学のアイデンティティを揺るがしかねないという点である。大学の国際化は、単に留学生を増やしたり、英語で授業を行ったりすることだけを指すのではない。日本の豊かな歴史や文化、そして精神性を海外に発信し、それを基盤とした上で国際社会との対話を進めることこそ、真の国際化と言えるだろう。
今回のオンライン学士課程の発表に際し、本来であれば、学生たちの「生の声」に耳を澄ますことが重要であったはずだ。新しい学習形態に対する期待や不安、そして大学に求めるものの本質を、大学側はどれだけ理解し、受け止めただろうか。単なる効率性や経済性のみを追求するのではなく、教育の本質を見失わないよう、大学当局には改めて強く注文したい。
グローバル化の喧騒の中で、私たちは足元を見失ってはならない。日本の教育が培ってきた独自の価値観を守りつつ、真に国益に資する国際化をどう進めるのか。この重要な問いに対し、大学は国民と共に考え、議論していく責任がある。
神戸大学大学院国際文化学研究科、オンラインでオープンキャンパス開催！,神戸大学
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