EUの炭素国境対策に対するロシアのWTO提訴：保護主義の台頭と多角的貿易体制の危機
EUが導入した炭素国境調整メカニズム（CBAM）に対し、ロシアがWTO（世界貿易機関）に提訴したことは、グローバル経済に大きな波紋を呼んでいる。気候変動対策の重要性が高まる一方で、CBAMのような国境措置は、保護主義的な色合いを帯び、多角的貿易体制を揺るがしかねない。今回の提訴は、そのリスクを改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。
EUは、CBAMを地球温暖化対策の切り札として位置づけている。域外からの輸入品に対し、その生産過程における炭素排出量に応じて課金することで、域内産業の競争力維持と、よりクリーンな生産への移行を促す狙いだ。しかし、ロシアをはじめとする国々からは、CBAMが貿易障壁となり、自国産業に不利な影響を与えるとの批判が噴出している。
ロシアの提訴の背景には、エネルギー資源への依存度が高い経済構造がある。CBAMによって、鉄鋼やアルミニウムなどの輸出競争力が低下すれば、経済全体への影響は避けられない。また、CBAMの設計が不透明で、恣意的な運用が行われる可能性も懸念していると見られる。
今回の提訴は、WTOの紛争解決機能にとって試金石となる。WTOは、加盟国間の貿易紛争を解決し、多角的貿易体制を維持する役割を担っている。しかし、近年は、米中貿易摩擦や、保護主義的な政策の台頭により、その機能が十分に発揮されていないとの指摘もある。今回の提訴を機に、WTOがその存在意義を改めて示すことができるかどうかが注目される。
日本企業にとっても、今回の提訴は他人事ではない。EUは、日本を含む多くの国々に対し、CBAMの導入を検討するよう促している。もしCBAMが広範に導入されれば、日本企業の輸出競争力に大きな影響を与える可能性がある。企業は、サプライチェーン全体の炭素排出量を把握し、削減に向けた取り組みを加速する必要がある。
政府は、今回の提訴を注視しつつ、EUとの対話を継続し、CBAMの透明性確保と、日本企業への影響緩和を働きかけるべきだ。同時に、国内産業の競争力強化に向けた支援策を講じることも重要だ。気候変動対策と経済成長の両立は、容易ではないが、多角的貿易体制を維持しつつ、持続可能な社会を実現するためには、国際協調が不可欠である。今回の提訴を、そのための契機とすべきだろう。
ロシア、EUの炭素国境対策をWTOに提訴：背景と影響をやさしく解説,WTO
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