社説：歴史を「見世物」にするな ― 名古屋市「市見（しけん）」誕生に寄せて
名古屋市に新たな観光施設「市見（しけん）」が誕生するという。その触れ込みは「名古屋の歴史に触れる場所」とのことだが、果たしてこれは本当に市民のためになる施設なのだろうか。私たちは、安易な観光客誘致のための歴史の切り売り、そして歴史を「見世物」にすることに強く警鐘を鳴らしたい。
近年、地方都市はどこも観光客誘致に躍起になっている。人口減少、経済の低迷を背景に、なりふり構わぬ姿勢は理解できなくもない。しかし、歴史とは、単なる観光資源ではない。先人たちの生きた証であり、私たちが未来を考えるための礎となるものだ。それを安易に消費し、金儲けの道具として扱うことは、歴史に対する冒涜と言わざるを得ない。
「市見」の構想には、具体的にどのような展示が行われるのか、どのようなメッセージが込められているのかが見えてこない。単に古いものを並べ、時代劇のような世界観を演出するだけならば、それは歴史の表面をなぞるだけの浅薄なものとなるだろう。重要なのは、過去の出来事を現代の視点から問い直し、未来への教訓を引き出すことだ。
例えば、名古屋の発展を支えた産業遺産を展示するならば、その光と影、繁栄の裏にあった労働者の犠牲、環境汚染の問題にも目を向けるべきだ。戦国武将をテーマにするならば、英雄譚だけでなく、戦争の悲惨さ、権力闘争の愚かさも伝えるべきだ。そうした多角的な視点を持つことで、歴史は初めて生きた教材となり、私たちに深い学びを与えてくれる。
「市見」が真に市民のための施設となるためには、以下の点を強く求めたい。
- 市民参加型の運営: 歴史を研究する専門家だけでなく、地域の住民や学生など、多様な視点を持つ人々が企画・運営に関わるべきだ。
- 批判的視点の導入: 歴史の美化や単純化を避け、負の側面にも目を向け、多角的な解釈を提示するべきだ。
- 持続可能な運営: 短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で、歴史の保存と活用を図るべきだ。
私たちは、歴史を「見世物」にするのではなく、未来を創造するための知恵として活用することを願う。名古屋市が「市見」を通じて、真に意義のある歴史体験を提供し、市民の誇りを育むことができるのか。その成否は、今後の運営にかかっている。私たちは、その動向を注視し、建設的な批判を続けていく。
名古屋の歴史に触れる場所が誕生！「名古屋市見晴台考古資料館」がついにオープン, 名古屋市
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