大阪万博「美しい国見え」パビリオン：過去への郷愁と未来への警鐘
2025年大阪万博まであと一年。各パビリオンの準備も佳境に入り、その全貌が徐々に明らかになりつつある。今回、注目したいのは「美しい国見え」パビリオンだ。運営主体である株式会社ITBの発表によれば、このパビリオンは日本の伝統文化や自然美を体験できる没入型展示を通して、「古き良き日本」を再発見し、未来への希望を育むことを目的としているという。
しかし、この「美しい国見え」というコンセプトには、看過できない問題点が潜んでいる。それは、過去への過度な郷愁と、現代社会が抱える課題への目をつぶりかねない危険性だ。
「美しい国」とは一体何を指すのか。明治維新以降の近代化を遂げた日本か、それとも江戸時代の泰平の世か。いずれにせよ、過去の特定の時代を理想化することは、歴史の負の側面、例えば身分制度や差別、環境破壊といった問題を矮小化することに繋がりかねない。
さらに、現代日本は少子高齢化、地方の衰退、格差の拡大、そして気候変動といった、深刻な課題に直面している。これらの問題に真摯に向き合い、解決策を探るのではなく、過去の美しさに目を向けることは、現実からの逃避に他ならない。
もちろん、伝統文化や自然美を大切にすることは重要だ。しかし、それらは過去の遺産として保存するだけでなく、現代社会の課題解決に活かしていくべきではないだろうか。例えば、伝統的な建築技術を応用した省エネ住宅の開発や、持続可能な農業の推進など、過去の知恵を未来に繋げる創造的な取り組みこそが、今求められている。
大阪万博は、単なる娯楽の場ではなく、未来社会のあり方を提示する機会であるべきだ。そのためには、「美しい国見え」パビリオンも、過去の美しさを懐かしむだけでなく、現代社会の課題を直視し、未来への希望を育むためのメッセージを発信する場となることを期待したい。
「美しい国」とは、過去の姿をそのまま再現することではない。私たちが直面する課題を克服し、持続可能な社会を築き上げることこそが、真に「美しい国」への道なのではないだろうか。大阪万博が、そのための議論を喚起し、新たな価値観を創造する契機となることを願う。
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