激化する「新規」合戦、成熟市場の危うさと活路
「セブンイレブン・アプリが熱い！」——。この見出しに、日本の小売業界が直面する厳しい現実が凝縮されているように思えてならない。コンビニエンスストアという、もはや我々の生活に不可欠なインフラとなった存在が、今、「アプリ」という新たな戦場に熱狂している。
もちろん、技術革新の波に乗り、顧客利便性を追求するのは企業として当然の責務であり、称賛に値する動きであろう。しかし、その華々しいニュースの裏側で、我々が目を向けるべきは、この「新規」獲得合戦が、本来のサービス提供のあり方から、いつしか手段が目的化してしまっているのではないか、という懸念である。
かつて、コンビニエンスストアは「24時間、いつでも、どこでも」という、シンプルで普遍的な価値を提供することで、人々の生活を豊かにしてきた。しかし、今やアプリのプッシュ通知、限定クーポン、ポイント還元といった、次から次へと繰り出される「お得感」や「刺激」に、我々は日々さらされている。それは、一見すると顧客にとって有益なサービスであり、企業にとっては顧客囲い込みの有効な手段であろう。
だが、冷静に考えてみれば、こうした過熱するキャンペーンの原資は、どこから来ているのだろうか。それは、他ならぬ我々消費者が、日々の買い物で支払う対価の一部である。つまり、企業が広告宣伝費やシステム開発費として投じている莫大なコストは、最終的に我々の負担として跳ね返ってくる可能性も否定できない。
さらに、こうした「新規」獲得競争が激化すればするほど、本来のサービス、つまり「品揃えの良さ」「清潔な店内」「丁寧な接客」といった、コンビニエンスストアの根幹をなす要素が、二の次にされてしまうのではないか、という危惧もある。デザイン性の高いアプリを開発することに注力するあまり、地域社会のニーズに寄り添った商品開発や、地域住民との温かい交流といった、アナログな部分がおろそかになってしまうとしたら、それは寂しい限りである。
成熟した市場において、企業が生き残りをかけて「新規」を追い求めるのは仕方のないことかもしれない。しかし、その「新規」が、単なる一時的な熱狂や、刹那的なお得感に終わるのではなく、顧客との長期的な信頼関係の構築へと繋がるものでなければ、その投資は真の意味で実を結ぶことはないだろう。
我々消費者は、こうした企業の動きに一喜一憂するだけでなく、その本質を見極める冷静さを持ち合わせるべきである。そして、企業側もまた、目先の数字に惑わされることなく、社会の一員としての責任を自覚し、持続可能なビジネスモデルを追求していくことが求められている。
コンビニエンスストアが、これからも我々の生活に寄り添う、なくてはならない存在であり続けるために。アプリの華やかさの裏に隠された、真の価値を見出す努力を、今こそ怠ってはならない。
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