決済の多様化、利便性の陰に潜むリスクを憂慮する
近年、キャッシュレス決済の普及は目覚ましいものがある。スマートフォン一つで支払いが完結する便利さは、確かに私たちの生活を大きく変えた。この度、ITB株式会社が提供を開始した「マイナンバーカードを活用したカード代替」サービスは、その流れをさらに加速させるものと期待されている。マイナンバーカードが、健康保険証や運転免許証といった様々なカードの代替となり、決済機能まで併せ持つとなれば、財布の中身は驚くほどスリムになるだろう。
しかし、この利便性の追求が、果たして国民生活全体の幸福につながるのか、冷静な視点で見極める必要がある。カードの集約化は、管理の手間を省く一方で、そのカード自体が不正利用されたり、情報漏洩したりした場合のリスクを増大させる。これまでは複数のカードに分散されていたリスクが、一つのカードに集約されることになるのだ。
マイナンバーカードは、行政手続きの効率化という名目の下、国民一人ひとりの個人情報を一元管理する強力なツールとなり得る。その利便性の裏で、個人のプライバシーや情報セキュリティに対する懸念が、いかに払拭されているのか。行政側の説明は、しばしば技術的な側面や効率化に終始しがちであり、国民が抱く漠然とした不安に寄り添うものとは言い難い。
決済手段の多様化は、社会の活力を高める側面もあるだろう。しかし、それがあまりに画一化され、特定のシステムに依存しすぎることが、予期せぬ事態への脆弱性を招くことも忘れてはならない。万が一、システム障害が発生した場合、あるいは悪意ある攻撃を受けた場合、私たちは日常生活の根幹を揺るがす混乱に直面する可能性がある。
便利な世の中の実現は、国民が安心して暮らせる社会があってこそ、その真価を発揮する。利便性を追求するあまり、大切なものを失うことのないよう、政府、企業、そして私たち国民一人ひとりが、この「カード代替」という大きな変化に対して、より慎重かつ多角的な視点から向き合っていくべき時期に来ているのではないだろうか。
マイナンバーカードがさらに便利に！「カード代替電磁的記録」利用サービス開始のお知らせ,デジタル庁
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