ニューヨーク州弁護士会、AI時代の「記録」のあり方を問う
ニューヨーク州弁護士会（NYSBA）が、2025年9月4日付で「The Recorder」に掲載した声明は、AI技術の急速な発展がもたらす法務分野への影響と、それに伴う倫理的・法的な課題を改めて浮き彫りにした。AIが生成する「記録」の信頼性、証拠能力、そして弁護士の責任範囲といった、これまで当然視されてきた前提が揺らぎ始めている現状を、NYSBAは的確に指摘していると言えるだろう。
AIによる文書作成、証拠分析、さらには司法判断の支援といった事例は、もはやSFの世界の話ではない。効率化やコスト削減といったメリットを享受できる一方で、AIが生成した情報が、事実に基づかない、あるいは偏ったものである可能性は常に存在する。このAI生成の「記録」が、訴訟や取引といった法的プロセスの根幹をなす証拠として、あるいは判断材料として、どのような重みを持つのか。NYSBAの声明は、この根源的な問いに、弁護士会として真摯に向き合おうとする姿勢を示している。
特に注目すべきは、AI生成の記録に関する「正確性」「完全性」「信頼性」を担保するための、弁護士の責任の所在を明確にしようとする試みである。AIが作成した文書であっても、最終的な責任はその内容を吟味し、法廷に提出する弁護士にある。この原則は、AI時代においても揺るぎないものであろう。しかし、AIのブラックボックス性や、その進化のスピードを考えると、弁護士がその責任を全うするための具体的な指針や、適切な監督体制の整備が急務であることは論を俟たない。
今回のNYSBAの声明は、単にニューヨーク州の弁護士会だけの問題にとどまらない。AI技術は国境を越え、法務分野全体に影響を及ぼす。日本においても、弁護士会や司法制度全体として、AI時代の「記録」のあり方について、より踏み込んだ議論を深めていく必要がある。AIの恩恵を最大限に活かしつつ、法の公正さ、そして人権を守るための safeguards をどう構築していくのか。NYSBAの声明は、私たちにそのための重要な示唆を与えてくれたと言えるだろう。
AIという新たなツールが、法曹界のあり方を根底から変えようとしている今、我々は安易な技術導入に走るのではなく、その影響を冷静に見極め、倫理的、法的な基盤をしっかりと築き上げる努力を怠ってはならない。NYSBAの提言は、そのための貴重な一歩である。
ニューヨーク州弁護士会（NYSTCA NY）、2025年9月4日に「The Recorder」を公開！,NYSTCA NY
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