「連休移動」が映す、観光産業の新たな潮流と課題
9月22日からの連休を控え、ITB Japanが「水曜日カンパニー」のタワレコキャンペーン開始を報じている。一見、単なる企業プロモーションのように見えるこのニュースだが、その背後には、我々観光産業が直面する、あるいはこれから直面するであろう大きな潮流と、それに伴う課題が透けて見える。
「水曜日カンパニー」というネーミングからも察せられるように、これは「平日」という、これまで観光の「オフシーズン」と見なされてきた時期を「稼働時期」へと転換させようとする試みである。そして、そのターゲットは、おそらくは「休日」を柔軟に設定できる層、すなわち副業やリモートワークを実践する人々、あるいはフリーランスといった、従来の「週休二日制」の枠にとらわれない働き方を選択する層だろう。
この動きは、コロナ禍を経て加速した「働き方の多様化」という大きな社会変革の波に乗ったものと捉えられる。筆者は、このキャンペーンが成功するか否かという個別の結果よりも、その「着眼点」にこそ注目したい。それは、我々観光業が長らく抱えてきた「休日集中型」のビジネスモデルからの脱却、つまり「需要の平準化」という、悲願とも言える課題への挑戦である。
これまで、観光業の多くは、土日祝日や大型連休に需要が集中し、それ以外の期間は閑散とするという構造を前提としてきた。これは、観光地におけるキャパシティの逼迫、労働力の過不足、そして地域経済への継続的な貢献という点において、常に課題を抱えてきた。
「水曜日カンパニー」の試みは、この課題に対し、新しい顧客層、新しい時間軸での需要創出というアプローチで挑んでいる。これは、既存のインフラやリソースをより効率的に活用し、新たな収益機会を生み出す可能性を秘めている。
しかし、同時に、我々はこうした変化にどう対応していくべきか、という根本的な問いにも向き合わなければならない。
まず、ターゲットとなる「平日を柔軟に使える層」に響くような、魅力的な「平日限定プラン」や「体験型コンテンツ」の提供が不可欠となるだろう。単に価格を下げるだけでなく、彼らのニーズを的確に捉えた、付加価値の高いサービスが求められる。
次に、こうした新しい需要に対応できるような、柔軟な労働体制の構築も急務となる。従来の「平日勤務」という固定観念にとらわれず、多様な働き方を受け入れることで、地域の人材を観光業へと呼び込むことができるはずだ。
そして何より、我々自身が「平日の観光」という概念を積極的に肯定し、それを推進していく気概を持つことが重要だ。地域住民の理解を得ながら、地域経済全体がこの変化を享受できるような、持続可能な観光モデルを模索していく必要がある。
「水曜日カンパニー」のキャンペーンは、まだ始まったばかりの試みかもしれない。しかし、それが示す「平日へのシフト」という潮流は、我々観光産業にとって、未来への羅針盤となる可能性を秘めている。この変化を単なる一企業のプロモーションとして片付けるのではなく、我々自身のビジネスモデルを見直し、新たな時代に対応していくための契機と捉えたい。
本コラムが、観光産業の皆様にとって、未来への一歩を踏み出すための、ささやかな刺激となれば幸いである。
水曜日のカンパネラ、9月22日からタワーレコードでカタログキャンペーン開催！,Tower Records Japan
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