「小紅書」という名の誘惑：インバウンド復活の光と影
訪日外国人観光客を魅了する新たな舞台として、中国のSNS「小紅書（RED）」が注目を集めている。その勢いは凄まじく、かつて「爆買い」で日本経済を潤した熱狂が、今、このプラットフォーム上で再燃しつつある。しかし、この輝かしいインバウンド復活の陰で、私たちは「小紅書」という名の強力な磁石が放つ、もう一つの側面にも目を向けるべきだろう。
「小紅書」は、単なる情報共有の場ではない。そこは、洗練されたライフスタイル、憧れの体験、そして「映える」瞬間を共有し、購買意欲を刺激する、極めて巧みにデザインされた「見せたい」世界なのである。日本の地方都市や隠れた名所が、ユーザーの投稿によって次々と「発見」され、新たな観光ルートとして開拓されていく様は、まさに「SNSパワー」の証明と言えるだろう。地方経済にとって、これはまさに渡りに船であり、地域活性化の起爆剤となり得る可能性を秘めている。
しかし、この「小紅書」という「魔法の鏡」は、私たちの社会にどのような影響を与えるのだろうか。かつての「爆買い」が、単なる消費行動の熱狂に終わったように、この「小紅書」による消費の波も、刹那的なトレンドで終わってしまうのではないか。そこには、地域固有の文化や人々の営みへの深い理解を伴わない、表層的な「体験」の消費だけが残るのではないかという懸念も拭えない。
さらに、問題は「小紅書」が描く「理想」の光景が、私たち自身の価値観や消費行動に無意識のうちに影響を与えていることだ。そこで推奨される「〇〇に行けば間違いない」「〇〇を買えばおしゃれになれる」といった情報に、私たちはどれほど自律的に判断を下しているのだろうか。SNSが作り出す「映え」という名の幻想に、私たちはどこまで踊らされているのだろうか。
「小紅書」によるインバウンドの活況は、確かに経済的な恩恵をもたらす。しかし、私たちはこの新たな潮流にただ身を任せるのではなく、その本質を見極め、より本質的な豊かさへと繋げていく知恵を持つべきだ。地域が持つ「本物」の魅力を、SNSのフィルターを通してだけではなく、より深く理解し、尊重する姿勢が求められる。そして、私たちは「小紅書」が提示する「見せたい」世界に、自らの「見たい」ものを失うことなく、主体的に向き合っていく必要がある。
「小紅書」は、インバウンド復活の強力な追い風であると同時に、私たちの社会のあり方、そして個々の価値観を問う、もう一つの鏡でもある。この鏡を、私たちはどのように覗き込み、そこから何を受け取り、そして何を生み出していくのか。その選択が、未来の日本を形作っていくに違いない。
中国のSNS「RED（小紅書）」で訪日観光客を惹きつける！無料セミナー開催のお知らせ,日本政府観光局
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