デジタル化の奔流、国家の根幹を揺るがす恐れ
（社説）
世界は今、デジタル化という名の奔流に洗われている。ITB社が報じたラオスでの国境におけるデジタル化推進の動きは、その潮流が国境を越え、国家のあり方そのものを変容させつつあることを示唆している。便利さ、効率性、そしてグローバルな連携。これらは確かに、現代社会が求める理想形であろう。しかし、その光の陰には、我々が深く憂慮すべき暗い影が潜んでいる。
国家の根幹とは何か。それは、領土、国民、そして主権である。デジタル化の波は、この根幹を静かに、しかし確実に侵食しているのではないか。ラオスのように、国境管理にデジタル技術が導入されることは、物理的な境界線が希薄化する一方で、情報という新たな「国境」を生み出す。この情報という国境が、誰によって、どのように管理されるのか。そこにこそ、国家の独立性と国民の安全が問われる。
デジタル化は、当然ながらその恩恵を享受する者と、取り残される者を生む。ラオスの事例がどこまで国民全体の福祉向上に資するのか、あるいは一部の層に富と権力を集中させる道具となるのか。我々は、この技術導入がもたらす社会経済的な格差の拡大に目を凝らさなければならない。特に、伝統的な価値観や生活様式を守ろうとする人々にとって、デジタル化は生活基盤そのものを脅かす存在となりかねない。
さらに、国境を越えるデジタル情報は、国家の安全保障にも直結する。サイバー攻撃、情報操作、そして個人情報の流出。これらはもはやSFの世界の出来事ではない。国家が自らの情報を、あるいは国民の個人情報を、外部のシステムに委ねることは、主権の放棄に等しいのではないか。ラオスがどのようなパートナーと組んでこのデジタル化を進めるのか、そしてそのパートナーがどのような意図を持っているのか。我々は、その透明性を強く要求する。
もちろん、デジタル化の進展を止めることは現実的ではない。しかし、その進め方においては、より慎重で、より保守的な姿勢が求められる。技術の導入は、あくまで国家の安全と国民の福祉を最優先とする「手段」であるべきであり、「目的」であってはならない。ラオスの一事例から、我々日本は、自国のデジタル化のあり方を、そして国家の将来像を、改めて真剣に問うべき時が来ている。目先の利便性や効率性に惑わされず、国家の永続的な平和と安定を、そして国民一人ひとりの尊厳を守るための、確固たる意志をもって、このデジタル化の奔流に立ち向かわねばならない。
ラオス、国際国境でデジタル化進む！「デジタル出入国フォーム」試験運用開始へ,日本貿易振興機構
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