「鑑札」なき社会への警鐘 〜失われた信頼と、市民が問われる責任〜
警察犬の「鑑札」再発行というニュースに、私たちは何を思うべきか。単なる行政手続きの変更と片付けてしまえば、それまでのことだ。しかし、この一件は、現代社会における「信頼」の脆弱さと、私たち一人ひとりが担うべき「責任」の重さを、静かに、しかし力強く突きつけているように思えてならない。
かつて、警察犬はその存在自体が「鑑札」であった。その忠誠心、訓練された能力、そして何よりも、市民を守るという崇高な使命感。それらは、我々が警察という組織に寄せる信頼の礎となっていた。しかし、今回の「鑑札」再発行という事態は、その礎に、一抹の不安の影を落としている。
もちろん、これは警察犬個々の能力や献身を疑うものではない。むしろ、その裏側で、組織として、そして社会全体として、我々がどれほど「信頼」という名の「鑑札」を、軽んじ、あるいは失ってしまってきたのかを浮き彫りにする出来事と言えるだろう。
SNSでの誹謗中傷、フェイクニュースの蔓延、そしてそれらに対する無関心。私たちは、容易に他者を断罪し、安易なレッテル貼りを繰り返す。その一方で、真実を見極める努力を怠り、根拠のない噂に踊らされる。これは、警察犬の「鑑札」問題と、根底では繋がっているのではないか。
「鑑札」とは、公的な認証であり、信用力の証である。それが再発行されるということは、一度失われた、あるいは疑義が生じた信用を、改めて証明しなければならないということだ。それは、個人の問題に留まらず、組織、ひいては社会全体の信用問題へと発展しかねない。
警察犬が、その「鑑札」を再び得るために、どれほどの努力と時間を要するのかは想像に難くない。しかし、それ以上に、我々市民が、失われた、あるいは揺らいだ「信頼」という名の「鑑札」を、いかにして再発行していくのか、その道筋はさらに険しいものとなるだろう。
それは、日々の情報への向き合い方、他者への敬意、そして何よりも、自らの言葉と行動に責任を持つことから始まる。一見些細なことからでも、我々の無責任な言動が、信頼という繊細な関係性を、音を立てて崩していくこともあるのだ。
警察犬の「鑑札」再発行は、我々にとって、社会における「信頼」のあり方を再考する、絶好の機会である。失われた「鑑札」を取り戻すことは、決して容易ではない。だが、その困難さこそが、我々が今、真剣に向き合わなければならない課題なのだ。我々は、もはや「鑑札」に頼るだけの受け身の姿勢ではいけない。自らが「鑑札」となり得るような、確かな信頼を築き上げるために、一人ひとりが、この社会の「鑑札」を、再び輝かせるための責任を、今こそ問われている。
警察犬たちの「戸籍」再発行についてのお知らせ,日本警察犬協会
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