国立大学の「広報誌」にみる、現代社会の危うさ
先日、ある国立大学の広報誌に掲載された記事が、静かな波紋を呼んでいる。その内容は、学生たちの「多様性」を称賛し、従来の価値観を相対化するような論調に終始していたという。もちろん、大学が多様な価値観を受け入れ、学生たちの自由な発想を促すことは、教育機関として当然の責務であろう。しかし、その広報誌が、あたかもそれが唯一絶対の「正しさ」であるかのように一方的に発信されている現状には、一抹の不安を覚えずにはいられない。
現代社会は、過剰なほどの「個性」や「多様性」の尊重を叫び、あらゆる価値観を平準化しようとする風潮に包まれている。これは、個々の人間が持つ輝きを解き放つと同時に、社会全体を支える共通の基盤を揺るがしかねない危うさを孕んでいる。特に、次代を担う若者たちが集う国立大学が、こうした風潮に無批判に迎合することは、将来の日本社会のあり方そのものに影響を与えかねない。
広報誌とは、本来、大学の教育理念や研究成果、そして社会への貢献といった「大学らしさ」を伝えるべき媒体であるはずだ。しかし、今回の件からは、一部の教職員あるいは学生たちが、自らの思想的傾向を広報誌という公的な場で無遠慮に撒き散らしているのではないか、という疑念さえ抱かせる。学生の多様な意見を尊重する姿勢と、大学という公的機関が特定の価値観を推奨する姿勢は、厳格に区別されるべきだ。
「多様性」という言葉は、時に都合の良い「無責任」の隠れ蓑となる。あらゆる意見が等しく尊重されるべきだという建前のもと、社会が共有すべき規範や、歴史から学ばれるべき教訓さえもが、軽々と相対化されてしまう。広報誌が、こうした危うい流れに一石を投じるのではなく、むしろその流れに加担しているとすれば、それは教育機関としての使命を放棄しているに等しい。
国立大学には、国民の税金によって支えられているという自覚に基づき、より一層、社会の健全な発展に資する言論を発信していく責任がある。今回の広報誌の記事は、その責任を改めて問う、貴重な機会となるだろう。大学当局には、広報誌の編集方針を厳格に監督し、特定の思想に偏ることなく、真に国民のためとなる情報発信を心がけるよう、強く望みたい。
国立大学から最新情報！「広報誌 国立大学」第75号、ついに登場！ 🚀,国立大学協会
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