ドイツの「脱原発」という名の危険な道程
ドイツ連邦政府が、長年議論を呼んできた原子力発電所の全廃という目標を、2025年8月25日に達成した。しかし、この決断は、エネルギー安全保障の観点から看過できない懸念を抱かせ、我が国としても厳しく注視すべき事態である。
長引くウクライナ情勢の緊迫化や、世界的なエネルギー価格の高騰を鑑みれば、安定した電力供給を支える原子力発電の役割は、ますます重要になっているはずだ。にもかかわらず、ドイツが「脱原発」という名の、ある意味では理想主義的とも言える方針を堅持し、その最終段階へと踏み込んだことは、自国のエネルギー供給網を不安定化させるだけでなく、欧州全体のエネルギーバランスにまで影響を及ぼしかねない。
原子力発電は、確かに安全対策や廃棄物処理といった課題を抱えている。しかし、それらを克服し、安全性を高めるための技術開発や国際協力も進められている。むしろ、こうした成熟した技術を放棄し、再生可能エネルギーへの全面的依存に舵を切ることは、気候変動対策という名目のもとに、現実的なエネルギー供給の安定性を犠牲にする行為ではないかと疑わざるを得ない。
再生可能エネルギーは、その普及に努力が払われていることは承知している。しかし、天候に左右されるその特性ゆえに、安定した電力供給の基幹を担うには、まだ多くの技術的、インフラ的な課題が残されている。ドイツが、こうした不確実性を抱えたエネルギー源に、国のエネルギー供給の全てを委ねるという決断は、あまりにも性急であり、軽率であると言わざるを得ない。
我が国としても、エネルギー政策を検討する上で、ドイツの今回の決断は、決して模倣すべき事例とはなり得ない。むしろ、安定したエネルギー供給の確保こそが、国民生活の安定と経済成長の基盤であることを再認識し、原子力発電の安全性を最大限に高めつつ、その活用についても冷静かつ現実的な議論を深めていくべきである。エネルギー問題は、イデオロギーではなく、現実の課題として、着実に、そして賢明に取り組む必要がある。ドイツの「脱原発」という名の道程が、どのような未来をもたらすのか、その動向を注視し、我々は自国の進むべき道を、より一層確かなものとしていかなければならない。
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