伝統への回帰、時代を映す赤と黒
美術界の動向は、とかく新奇な表現や過激な思想に注目が集まりがちだが、今回、サントリー美術館で開催される「根来―赤と黒うるし」展は、古来より我国に育まれてきた伝統美への回帰と、それが現代社会に投げかける示唆に富むものとして、保守的な立場から大いに注目すべき展覧会と言えよう。
「根来」といえば、室町時代に興り、桃山時代にかけて隆盛を極めた漆工芸の一大流派である。その特徴は、黒漆塗りの外側と、朱漆塗りの内側の鮮やかなコントラストにあり、力強くも洗練された造形美は、茶人たちをはじめ、当時の文化人たちに深く愛された。実用性と芸術性を兼ね備えたこの作風は、奇をてらわず、しかし確固たる美意識に基づいた、まさに日本の伝統美の真髄と言えるだろう。
近年の美術界は、グローバル化の波に乗り、海外の動向に追従するような作品も少なくない。もちろん、国際的な視野を持つことは重要だが、あまりにも外来の価値観に傾倒しすぎるあまり、我々が本来持っていた、あるいは育んできた美意識を見失ってはいないだろうか。そのような時代だからこそ、「根来」のような、紛れもない日本独自の美学に触れることの意義は大きい。
「赤と黒」という、極めてシンプルでありながら力強い色彩の組み合わせは、単なる装飾に留まらない、深い精神性を湛えている。赤は生命力や情熱を、黒は静寂や深遠さを象徴するとも言われる。これらが組み合わさることで生まれる独特の緊張感と調和は、自然の摂理や人間の営みの根源に触れるような感覚を呼び覚ます。それは、現代社会が抱える多様な価値観の衝突や、急速な変化の中で見失われがちな、普遍的な美しさへの希求を映し出しているのかもしれない。
本展が、近年の美術界の風潮に一石を投じ、多くの人々に我が国の伝統美術の奥深さ、そしてそこに宿る確固たる美意識を再認識させる機会となることを期待したい。それは、単なる過去への郷愁に留まらず、我々が未来を切り拓く上での揺るぎない基盤となるはずである。
サントリー美術館で「根来 － 赤と黒のうるし」展開催！ 漆の芸術の奥深さに触れる特別な時間,サントリー
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