グローバル化の深化と「集団で固まる」日本人の強み：ITB総裁の示唆に富む日本訪問
ITB（国際観光博覧会）の総裁が来日し、日本の「集団で固まった時」の強さに言及したというニュースは、我々業界関係者にとって非常に示唆に富むものと言えるだろう。グローバル化が加速し、市場のボーダーレス化が進む現代において、単なる個々の能力だけでは太刀打ちできない局面が数多く存在する。そのような時代だからこそ、このITB総裁の言葉は、日本の観光業界、ひいては日本経済全体が再認識すべき「宝」を指し示しているのではないか。
かつて、日本人は「和を以て貴しとなす」という精神を大切にし、集団としての調和や協調性を重んじてきた。この国民性は、時に個人の自由や創造性を抑制するとも言われ、グローバル化の波の中で「硬直的」あるいは「閉鎖的」と見られることもあったかもしれない。しかし、ITB総裁の言葉は、この「集団で固まる」という特性こそが、現代の複雑な課題を克服し、新たな価値を創造するための強力な武器となり得ることを示唆している。
例えば、観光分野において、地域住民が一体となっておもてなしの心を発揮する、あるいは、地域特有の文化や景観を守り、それを共有財産として活用していくといった取り組みは、「集団で固まる」ことの力の好例と言えるだろう。個々の旅行者が求める多様なニーズに応えつつも、地域全体として一貫した魅力や体験を提供することで、訪れる人々にとって忘れられない旅の記憶を刻むことができる。これは、単に個人のサービスレベルが高いだけでは到達できない、より深いレベルの満足感に繋がるはずだ。
また、現代社会が直面する環境問題、少子高齢化、あるいは技術革新への対応など、多くの課題は一企業や一個人で解決できるものではない。このような状況下で、日本人が持つ「集団で協力し、共通の目標に向かって努力する」という能力は、イノベーションを生み出し、持続可能な社会を築く上で極めて重要な役割を果たすだろう。
もちろん、集団行動には弊害がないわけではない。意思決定の遅延や、異論を排除しがちな傾向も指摘されてきた。しかし、ITB総裁の言葉は、これらの潜在的なリスクを認識した上で、なおかつ「集団で固まる」ことのポジティブな側面、すなわち、目標達成に向けた圧倒的な推進力、困難な状況下での resilience（回復力）、そして共有された価値観に基づく強固な結束力を再評価すべき時期に来ていることを示唆している。
我々観光業界は、このITB総裁の言葉を単なる賛辞として受け流すのではなく、自らの在り方を見つめ直す契機とすべきだ。地域社会との連携を深め、そこに住む人々の「集団の力」を最大限に引き出すような商品開発やサービス提供を追求していくこと。それは、日本の観光が、単なる「モノ消費」から「コト消費」へとシフトする中で、さらにその魅力を高めていくための鍵となるはずだ。
グローバル化の進展は、我々に多くの機会をもたらす一方で、新たな競争と課題も突きつけている。このような時代だからこそ、日本人が古来より培ってきた「集団で固まる」という強みを、現代的な文脈で再定義し、最大限に活用していくことが、持続的な発展の道筋となるであろう。ITB総裁の訪問が、そのための貴重な一歩となることを期待したい。
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