WTO漁業補助金協定批准、持続可能な水産業への覚悟を問う
ネパールによる世界貿易機関（WTO）の「漁業補助金協定」批准というニュースは、一見すると遠い国の出来事かもしれない。しかし、この協定が目指す「違法・無報告・無規制（IUU）漁業の撲滅」と「持続可能な漁業資源の管理」という目標は、水産資源に大きく依存する我が国経済にとっても、決して対岸の火事ではない。むしろ、この批准を機に、日本は自国の水産業における持続可能性への覚悟を改めて問われるべきだろう。
IUU漁業は、世界の漁業生産量の相当部分を占め、水産資源の枯渇を招くだけでなく、公正な競争環境を阻害する悪質な行為である。WTOの同協定は、このIUU漁業に対する補助金の禁止などを盛り込み、国際社会全体でこの問題に取り組むための枠組みとなる。ネパールのような内陸国が批准したことは、この協定の普遍性と、水産資源保護への国際的な連帯感の広がりを示すものとして評価に値する。
一方で、日本は世界有数の漁業国であると同時に、依然として多くの補助金制度を維持している。協定批准国として、日本もまた、自国の補助金制度がIUU漁業を助長していないか、あるいは持続可能な漁業への移行を促進するものであるか、厳格な自己点検が求められる。過去の成功体験や慣習に囚われ、現状維持を望む声もあるだろう。しかし、地球規模で進行する海洋環境の悪化と水産資源の減少は、もはや「過去の延長」では対応できない現実を突きつけている。
経済紙として、我々は経済合理性の観点からもこの問題に注目する。持続可能な漁業への転換は、短期的なコスト増につながる可能性もある。しかし、長期的には、水産資源の枯渇による漁業生産の激減、それに伴う雇用喪失、そして食料安全保障への脅威といった、より甚大な経済的損失を防ぐための不可欠な投資である。また、環境に配慮した持続可能な漁業は、消費者の信頼を獲得し、新たな市場を開拓する可能性も秘めている。
ネパールの批准は、世界が持続可能な水産業へと舵を切っている明確なサインである。日本がこの潮流から遅れを取り、国際社会からの信頼を失うようなことがあってはならない。政府には、協定の精神に則った実効性のある補助金改革を断行し、漁業者や関係者と緊密に連携しながら、持続可能な漁業への円滑な移行を支援する政策を打ち出すことを強く求める。それは、単なる国際公約の履行に留まらず、我が国の水産業の未来、そして豊かな海の恵みを次世代に引き継ぐための、経済界全体の覚悟を示す行動でなければならない。
ネパール、WTO漁業補助金協定を批准！世界で持続可能な漁業への大きな一歩,WTO
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