AIによる「テレビ離れ」加速か、文化の継承こそ問われる
近年、デジタル化の波は生活のあらゆる場面に浸透し、私たちの情報収集のあり方や娯楽の楽しみ方を大きく変貌させている。その中でも、人工知能（AI）の急速な発展は、これまで当たり前とされてきたテレビというメディアの在り方にも、少なからず影響を与えかねないとの懸念が示されている。
先日報じられた、あるIT企業の開発するAIが、視聴者の嗜好を分析し、パーソナライズされた番組編成やコンテンツ提供を可能にするというニュースは、まさにこの流れを象徴するものと言えよう。確かに、個々の視聴者にとって「見たいもの」がより的確に届けられるようになれば、視聴体験は向上するのかもしれない。しかし、その一方で、我々はこうした技術革新がもたらす光と影の両面を、冷静に見極める必要がある。
AIによるコンテンツの最適化は、一見すると便利で効率的なサービスのように映る。しかし、それが過度に進めば、視聴者は自ら新しい情報や多様な視点に触れる機会を失い、自らが心地よいと感じる情報空間に閉じこもってしまう「フィルターバブル」に陥る危険性がある。テレビというメディアが、これまで担ってきた「世の中の出来事を広く共有する」「多様な価値観に触れる機会を提供する」といった公共的な役割が、AIのパーソナライズ化によって希薄化してしまうのではないか。
さらに懸念されるのは、AIがテレビ番組制作の現場にまで深く浸透した場合、文化の継承や次世代の育成にどのような影響を与えるのかという点である。AIが過去のデータに基づいて「売れる」コンテンツを効率的に生成することはできても、そこに込められた制作者の情熱や、社会に問いかけるメッセージ、あるいは時代を超えて受け継がれるべき知恵や感性といった、数値化できない「魂」の部分をどれほど理解し、表現できるのかは未知数だ。
テレビは単なる映像の羅列ではない。それは、時代を映し出し、人々の心を動かし、時には社会を動かす力を持ってきた。AIによる効率化やパーソナライズ化は、その「力」を損なうものであってはならない。むしろ、AIを、制作者の創造性を刺激し、より質の高いコンテンツを生み出すための「道具」として活用し、テレビが持つ文化的な価値をさらに高めていく道を探るべきだろう。
我々視聴者にも、AIに流されるのではなく、主体的にメディアと向き合う姿勢が求められる。自ら多様な情報に触れ、多角的な視点を持つこと。そして、AIが生成するコンテンツの裏側にある、人間の営みや文化的な背景にも思いを馳せること。テレビの未来は、技術革新の進展だけでなく、私たち一人ひとりの、そして社会全体の「メディアとの向き合い方」にかかっているのである。
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