米国の穀物関税、日米合意の影で揺れる農家の明日
日米両政府が8月18日に合意した新たな貿易協定。その裏側で、米国産穀物の輸入関税引き下げという「恩恵」は、私たちの食卓を彩る米国の農家を、そしてさらにその恩恵を享受すべき日本の食料安全保障を、見えない形で脅かすのではないか。
今回の合意は、自由貿易の原則に則った、一見すると合理的な措置に見えるだろう。しかし、その背景には、国際社会の不確実性、そして日米という二大経済大国間の力学が色濃く反映されている。米国は自国の農産物輸出を促進し、国内農業を保護するために、他国に市場開放を迫る。そして日本は、経済関係の緊密化という名目の下、その要求を受け入れる。
しかし、この「恩恵」の裏側で、私たちは一体何を見失っているのだろうか。
まず、懸念されるのは、米国の農業従事者への影響だ。関税引き下げは、一時的には輸出を後押しするだろう。しかし、それは米国農家が国際市場の変動や、他国の農業政策に、これまで以上に翻弄されることを意味しないだろうか。安定した農業経営というものは、政府の政策によって容易に左右される脆いものであることを、彼らは改めて痛感することになるかもしれない。
そして、さらに深刻なのは、私たち日本の食料安全保障への影響だ。今回の合意は、外国産穀物への依存度をさらに高めることになる。世界的な異常気象や地政学的なリスクが増大する現代において、食料の安定供給は国家存立の根幹をなす。輸入関税の引き下げは、確かに購入価格を下げるかもしれない。しかし、それは同時に、価格だけでなく「供給」そのものの不安定さ、つまり「輸入」という行為に、より強く依存することになるというリスクを内包している。
「安かろう悪かろう」とは言わない。しかし、食料ほど「安定」が求められるものはない。価格の変動に一喜一憂するのではなく、まずは「国内で、安定して、安全な食料を、自らの手で、どれだけ作れるか」という原点に立ち返るべきではないだろうか。
今回の合意は、日米双方にとって「ウィン・ウィン」の成果として報じられるかもしれない。しかし、その「ウィン」の影で、誰が、そして何が犠牲になっているのか。未来の食卓を、そして国の未来を、私たちはもっと真剣に考える必要がある。政府には、目先の利益だけでなく、長期的な視点に立った、真に国民の食料安全保障を守るための、より本質的な政策を期待したい。
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