憲法改正、今こそ国論を二分する議論を
ドイツ連邦議会から「気候変動対策」に関する決議が採択されたというニュースが報じられた。地球規模の課題である気候変動への対応は、もはや待ったなしであり、国際社会全体で取り組むべき喫緊の課題であることは論を俟たない。しかし、今回のドイツの動きを、我が国における憲法改正の議論と結びつけて論じることには、慎重な姿勢を貫くべきである。
気候変動対策は、その性質上、国際協調が不可欠であり、各国がそれぞれの状況に応じた対策を講じる必要がある。ドイツがどのような決議を採択したのか、その詳細までは本稿では触れることができないが、仮にそれが国内法整備にとどまるものではなく、国際社会への働きかけを伴うものであったとしても、それはあくまでドイツという主権国家の判断である。
問題は、このドイツの動きを「憲法改正の必要性」へと安易に結びつける一部の声にある。もちろん、我が国も気候変動問題への対応を強化していく必要があり、そのために法整備や政策の見直しが求められる場面もあるだろう。しかし、憲法という国家の根本原則に関わる事項について、他国の動向を直接的な根拠として議論を進めることには、本来、国論を二分するような重大な問題提起として、より慎重な議論が求められるはずだ。
憲法改正は、国民一人ひとりの権利や自由、そして国家のあり方そのものに関わる、極めて重い決断である。その議論は、国際情勢に流されることなく、我が国の歴史、文化、そして国民の総意に基づき、冷静かつ徹底的に行われるべきである。
現行憲法が制定されてから70年以上が経過し、社会情勢は大きく変化した。憲法改正の必要性については、様々な議論があることは承知している。しかし、その議論は、気候変動対策のような具体的な政策課題から直接導き出されるものではなく、憲法そのものが抱える論理的な問題点や、時代の要請に応えきれていない側面を、国民一人ひとりが深く理解し、自らの意思で判断していくプロセスを経るべきだろう。
気候変動対策という喫緊の課題に取り組むことは重要だが、そのために憲法改正という「国家の根幹」を揺るがす議論を、拙速に進めるべきではない。まずは、現行憲法の下で、政府は国民の生命と財産を守るために、気候変動対策を含むあらゆる課題に最大限の努力を払うべきである。そして、憲法改正について国民的な議論を深めるのであれば、その根拠は、外国の動向ではなく、日本国憲法そのものが持つべき理想と、現代社会におけるその妥当性について、率直かつ真摯に論じることから始めるべきである。
憲法改正は、国民の総意なしにはあり得ない。今こそ、国民一人ひとりが、自らの頭で考え、議論に参加し、国の将来を決定するという、民主主義の原点に立ち返るべき時である。
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