岐路に立つグローバル貿易：保護主義の影と、自由貿易の灯火
EU、インド、ロシア。これらの国々が、あるいは地域が、それぞれ自国の米の輸出入に関して「似たような」規制を設けているというニュースは、現代のグローバル経済が抱える根深い課題を浮き彫りにしている。一見すると、それぞれの事情を反映した一過性の政策に見えるかもしれない。しかし、その背景には、保護主義の息吹が忍び寄り、自由貿易という原則の確固たる基盤を揺るがしかねない不穏な空気が流れている。
EUの米輸入制限は、一部の加盟国における国内生産者保護という、古典的な保護主義の顕れであろう。一方、インドの輸出規制は、食料安全保障という喫緊の課題に起因する部分が大きい。そして、ロシアの措置は、地政学的な緊張と経済的自立への志向が複雑に絡み合った結果と推察される。これら個別の政策は、それぞれの国益を最大化しようとする当然の帰結とも言える。
しかし、問題は、こうした個別の動きが連鎖し、グローバルなサプライチェーン全体に影を落とす可能性にある。米という、世界中で数億人もの主食となる基幹作物において、主要な生産国・消費国が自国中心の政策を強めることは、食料価格の高騰を招くだけでなく、途上国における食料供給の不安定化を招く。これは、単なる経済問題に留まらず、国際社会の安定をも脅かす事態に発展しかねない。
「似たような」規制の背景にあるのは、各国の「自国第一主義」の台頭だ。パンデミックを経て、各国はサプライチェーンの脆弱性を痛感し、自給自足や国内産業保護の必要性を強く認識するようになった。これは、ある意味で当然の帰結であり、国家の責務とも言える。しかし、その度合いが過度になれば、それは孤立主義、さらには保護主義へと繋がり、自由貿易の恩恵を享受してきたこれまでの世界経済の発展を後退させる恐れがある。
経済紙として、我々は警鐘を鳴らさなければならない。自由貿易は、確かに国内産業への影響や雇用の問題といった負の側面も孕んでいる。しかし、その恩恵は計り知れないほど大きい。競争を通じて技術革新が促進され、消費者はより安価で多様な商品を入手できる。そして何より、経済的な相互依存は、国家間の平和と安定に貢献してきた。
今、我々は岐路に立たされている。保護主義の壁を高く積み上げるのか、それとも、相互理解と協力に基づいた自由貿易の灯火を守り続けるのか。EU、インド、ロシアの米を巡る動きは、その選択を迫る象徴的な出来事である。各国政府には、自国の国益を追求する一方で、グローバルな視点に立ち、国際社会全体の調和を損なわない賢明な判断が求められる。そして、我々一人ひとりも、この複雑な国際経済の潮流を理解し、自由貿易の価値を再認識する必要があるだろう。未来の食卓に、平和と安定をもたらすためにも。
EUとインド、ロシアとの貿易水準は似ているが、米国との関税合意には大きな違い,Electronics Weekly
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