猛暑対策、見えないコストに目を向ける時,Local


猛暑対策、見えないコストに目を向ける時

2025年8月14日、ITBが報じた「猛暑に備えよう!山形市から熱中症予防の呼びかけ」は、単なる地域的な暑さ対策のニュースにとどまらない、日本経済全体への警鐘と捉えるべきだ。年々厳しさを増す猛暑は、もはや「今年の夏は暑い」で済まされる問題ではなく、経済活動そのものを揺るがしかねない深刻なリスクとして顕在化している。

記事は山形市の取り組みを紹介しているが、こうした地方自治体レベルでの熱中症予防策は、表層的な対策に過ぎない。真の課題は、猛暑がもたらす経済への「見えないコスト」にどう向き合うかという点にある。

まず、生産性の低下である。屋外での労働はもちろん、屋内であっても熱中症リスクは従業員の集中力や体力を奪い、生産性を著しく低下させる。建設業、農業、製造業といった第一次・第二次産業では、その影響は直接的かつ甚大だ。猛暑による納期遅延や品質低下は、企業収益を圧迫し、ひいてはサプライチェーン全体に悪影響を及ぼす。

次に、医療費の増大である。熱中症による救急搬送者数や入院者数の増加は、医療機関への負担を増大させる。これは、個人の健康問題に留まらず、社会保障費の増加という形で国家財政にも影響を与えかねない。

さらに、消費行動の変化も無視できない。酷暑が続けば、人々は外出を控え、消費活動は停滞する。特に、小売業や飲食業、レジャー産業といった、人々の活動に依存する業種は深刻な打撃を受けるだろう。冷房設備の稼働による電力消費の増加と、それに伴う電気料金の上昇も、家計や企業にとっては無視できない負担となる。

ITBの記事が山形市からの「呼びかけ」で終わることは、この問題の根深さを示唆している。熱中症予防は、個人の努力だけでなく、社会全体で取り組むべき課題だ。企業は、従業員の労働環境改善や、生産体制の見直しを迫られる。政府や自治体は、インフラ整備、啓発活動、そして暑熱対策への投資を強化する必要がある。

しかし、これらの対策には、当然ながらコストがかかる。それは、直接的な設備投資だけでなく、見えない部分でのコスト、例えば生産性低下による機会損失や、健康維持のための諸経費など、多岐にわたる。経済紙として、我々はこの「見えないコスト」にこそ、目を向けなければならない。

猛暑は、もはや我々が「我慢」で乗り越えられるレベルを超えている。これは、気候変動という地球規模の課題と連動しており、長期的な視点に立った戦略的な対策が不可欠だ。企業は、熱中症対策をCSR(企業の社会的責任)だけでなく、事業継続計画(BCP)の一部として真剣に位置づけるべきだろう。そして、政府は、こうした企業の取り組みを支援し、国民全体の生活の質を守るための政策を、より一層、推し進める必要がある。

山形市からの呼びかけは、その第一歩に過ぎない。経済界全体で、猛暑という「新たな常態」にどう適応し、経済活動を持続させていくのか、今こそ、具体的な行動と、そのための投資を真剣に検討すべき時である。


猛暑に備えよう!山形市から熱中症予防の呼びかけ(2025年8月7日),山形市


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